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H30.12.14 弁護士 今堀 茂
建物建築請負契約において,瑕疵修補に代わる損害賠償請求権と請負報酬債権全額との間に同時履行関係を認めた最高裁判例のご紹介(最高裁判所平成9年2月14日判決)

建物建築請負契約において,瑕疵修補に代わる損害賠償請求権と請負報酬債権全額との間に同時履行関係を認めた最高裁判例のご紹介(最高裁判所平成9年2月14日判決)

平成30年12月14日
弁護士 一級建築士 一級建築施工管理技士
 今 堀   茂

【はじめに】
 今回は,建物建築請負契約において,瑕疵修補に代わる損害賠償請求権と請負報酬債権全額の支払いとの間に同時履行関係を認めた最高裁判例(最高裁判所平成9年2月14日判決)のご紹介です。
 自宅の新築工事を建築業者に依頼し,工事は完成したものの瑕疵が存在するといった場合,建築主には,工事代金全額を支払いたくないという考えが生じると思われます。しかし,その時点では,瑕疵を修補するのに要する費用の金額は不確定であり,また,そもそも瑕疵があるかどうかという点についても不確定という場合もあるでしょう。法律の専門家でも建築の専門家でもない建築主としては,報酬の全額について同時履行(双務契約において,相手方が債務の履行を提供するまでは自分の債務の履行を拒めるという関係)を主張し支払いを拒んで良いのか,瑕疵修補に代わる損害賠償請求権との相殺を主張した方が良いのか,判断に迷うことになります。
 建築主としては非常に不安になる場面に関するものですので,基本的かつ重要な判例として,ここにご紹介致します。

【事案の概要】
 本件は,Yから自宅新築工事を請け負い完成させた建築業者Xが,工事に瑕疵があるとして残代金の支払いを拒まれたため,工事残代金1196万8647円と引渡日翌日以降の遅延損害金の支払いを求めて訴えを提起した事案です。
 Yは,Xからの請求に対して,瑕疵修補に代わる損害賠償請求権との同時履行等を主張し,これ対し,Xは,注文者が報酬の支払いを拒めるのは瑕疵修補に代わる損害賠償請求権の金額の範囲に限定されると反論して争いました。
 第一審は,工事残代金1159万8847円と瑕疵修補に代わる損害賠償金82万4000円との引換給付判決で,遅延損害金の請求については棄却判決でした。
 Xは控訴しましたが,Yは第一審判決の仮執行に応じて,支払いを行いました。
 控訴審では,Xは工事残代金と瑕疵修補に代わる損害賠償請求権との相殺の主張を追加しましたが,Yが仮執行に応じた際にXにおいて相殺権を放棄していたなどとして,残代金として1184万4147円,瑕疵修補に代わる損害賠償金として132万1300円が認定されました。控訴審の判決としては,不利益変更禁止の原則(上訴した場合に,原判決を上訴人にとって不利益に変更してはならないという原則)が適用され,工事残代金1184万4147円と瑕疵修補に代わる損害賠償金82万4000円との引換給付が命じられ,遅延損害金の請求については棄却されました。
 これに対してXが上告したのが本最高裁判例です。

【判決要旨】
 上告棄却
 「請負契約において,仕事の目的物に瑕疵があり,注文者が請負人に対して瑕疵の修補に代わる損害の賠償を求めたが,契約当事者のいずれからも右損害賠償債権と報酬債権とを相殺する旨の意思表示が行われなかった場合又はその意思表示の効果が生じないとされた場合には,民法634条2項により右両債権は同時履行の関係に立ち,契約当事者の一方は,相手方から債務の履行を受けるまでは,自己の債務の履行を拒むことができ,履行遅滞による責任も負わないものと解するのが相当である。しかしながら,瑕疵の程度や各契約当事者の交渉態度等に鑑み,右瑕疵の修補に代わる損害賠償債権をもって報酬残債権全額の支払を拒むことが信義則に反すると認められるときは,この限りではない。そして,同条1項但書は「瑕疵カ重要ナラサル場合ニ於テ其修補力過分ノ費用ヲ要スルトキ」は瑕疵の修補請求はできず損害賠償請求のみをなし得ると規定しているところ,右のように瑕疵の内容が契約の目的や仕事の目的物の性質等に照らして重要でなく,かつ,その修補に要する費用が修補によって生ずる利益と比較して過分であると認められる場合においても,必ずしも前記同時履行の抗弁が肯定されるとは限らず,他の事情をも併せ考慮して,瑕疵の修補に代わる損害賠償債権をもって報酬残債権全額との同時履行を主張することが信義則に反するとして否定されることもあり得るものというべきである。けだし,右のように解さなければ,注文者が同条1項に基づいて瑕疵の修補の請求を行った場合と均衡を失し,瑕疵ある目的物しか得られなかった注文者の保護に欠ける一方,瑕疵が軽微な場合においても報酬残債権全額について支払が受けられないとすると請負人に不公平な結果となるからである(なお,契約が幾つかの目的の異なる仕事を含み,瑕疵がそのうちの一部の仕事の目的物についてのみ存在する場合には,信義則上,同時履行関係は,瑕疵の存在する仕事部分に相当する報酬額についてのみ認められ,その瑕疵の内容の重要性等につき,当該仕事部分に関して,同様の検討が必要となる)。」

【解説】
1 同時履行(民法533条)について
  まず,同時履行について説明します。
  民法533条には「双務契約の当事者の一方は,相手方がその債務の履行を提供するまでは,自己の債務の履行を拒むことができる。ただし,相手方の債務が弁済期にないときは,この限りでない。」と規程されており,これを同時履行関係と言います。
  双務契約というのは,例えば,売買がこれに該当します。売主は物を引き渡す債務を,買主は代金を支払う債務を,それぞれ負っています。物を引き渡さなければ代金は支払われないし,また,代金を支払わなければ物は引き渡されない,というのは公平の観点から常識的に理解できると思います。これが同時履行関係です。
  2つの債権が同時履行関係にある場合,履行期が到来しても当然には履行遅滞(遅延損害金が発生する)にはなりません。

2 請負の同時履行(民法634条2項後段)と相殺について
 (1) 次に,請負人の担保責任に関する民法634条2項について説明します。
    民法634条2項には「注文者は,瑕疵の修補に代えて,又はその修補とともに,損害賠償の請求をすることができる。この場合においては,第533条の規程を準用する。」と規程されており,瑕疵修補に代わる損害賠償請求権と請負報酬債権との間に民法533条に規程されている同時履行関係を認めています。
    これをその文言通り読めば,瑕疵修補に代わる損害賠償請求権と請負報酬債権全額との間に同時履行関係があることは当たり前ということになります。
 (2) しかし,最高裁昭和51年3月4日判決は,瑕疵修補に代わる損害賠償請求権と請負報酬債権との対等額での相殺を認めています。
    この判例理論から出発すれば,上告人Xが主張していたように,注文者が報酬の支払いを拒めるのは瑕疵修補に代わる損害賠償請求権の金額の範囲に限定されるという考え方もあり得るということになります。
    つまり,請負契約で請負人が負っている債務は,瑕疵のない仕事を完成させるという債務ですので,瑕疵の修補そのものは本来的な請求であり請負報酬債権全額との間に同時履行関係が認められるのは当然だが,瑕疵の修補に代わる損害賠償請求は本来的な請求ではないからその相殺できる金額を超える部分については同時履行関係は認められないのではないかという考え方です。
 (3) ところが,本最高裁判例は,瑕疵修補に代わる損害賠償請求権と請負報酬債権全額の支払いとの間に同時履行関係を認めました。
    最高裁は,瑕疵修補に代わる損害賠償請求権と請負報酬債権との対等額での相殺による簡便な清算方法を認めつつ,瑕疵修補に代わる損害賠償請求権と請負報酬債権全額の支払いとの間に同時履行関係を認め,経済合理性と公平性とのバランスを取っていると言えます。
    仮に,注文者が報酬の支払いを拒めるのは瑕疵修補に代わる損害賠償請求権の金額の範囲に限定されるという前述した考え方に従えば,注文者が瑕疵の修補そのものを選択して請求すれば報酬全額について履行遅滞に陥らないが,注文者が瑕疵の修補に代わる損害賠償請求を選択すれば,請負報酬額と損害賠償金との差額について履行遅滞に陥って遅延損害金が発生してしまうという不合理が生じてしまいます。
    したがって,最高裁の判断は妥当です。

3 最後に
  以上の通りですので,自宅の新築工事を建築業者に依頼し,工事は完成したものの瑕疵が存在するといった場合に,建築主の工事代金全額を支払いたくないという考えは原則(本判例に述べられているように,信義則による制限があります。)として間違っていません。
  相殺の意思表示をすれば,請負報酬の残額について,その翌日から遅滞に陥りますので,このような場合,慌てて相殺の意思表示はせずに,まずは報酬の全額との同時履行を主張するべきでしょう。

以上

注:本稿に記載されている法律的見解は,あくまでも当職の私見です。

H30.9.12 弁護士 今堀 茂
住宅瑕疵の損害賠償請求において慰謝料まで認められた判例のご紹介(大阪地方裁判所平成10年7月29日判決)

住宅瑕疵の損害賠償請求において慰謝料まで認められた判例のご紹介(大阪地方裁判所平成10年7月29日判決)

平成30年9月12日
弁護士 一級建築士 一級建築施工管理技士
 今 堀   茂

【はじめに】
 今回は,住宅瑕疵の損害賠償請求において慰謝料まで認められた地裁判例(大阪地方裁判所平成10年7月29日判決)のご紹介です。
 慰謝料というのは精神的損害を金銭的に評価して賠償されるものですが,財産的損害を被った場合,その財産的損害の回復がなされれば精神的損害も回復されたと通常は考えられるので,基本的に財産的損害である住宅瑕疵の損害賠償請求において慰謝料が認められるケースはほとんどありません。
 ところが,本件では,財産的損害に加え,慰謝料として請求された金額の満額である100万円が認容されました。
 本件は例外的ケースだと思われますが,一体どのような場合が例外的なのかを示す格好の事例と考え,ここにご紹介致します。

【事案の概要】
 本件は,土地建物を代金4250万円で購入したXが,当該土地の擁壁や建物の基礎等に瑕疵があったとして,不動産販売業者Y1に対しては債務不履行ないし不法行為に基づき,本件建物の建設業者Y2及び設計監理者Y3に対しては不法行為に基づき,土地建物の購入代金を超える約6136万円の損害賠償を求めた事案です。

【判決要旨】
第1 主文要旨
1 被告Y2及び被告Y3は,Xに対し,各自,金6002万4912円及びこれに対する遅延損害金を支払え。
2 原告の被告Y1に対する請求を棄却する。

第2 裁判所の判断
1 被告Y2の過失の有無
 「本件コンクリート擁壁が回転移動したのは,その上に本件ブロック擁壁が設置されたうえ,更に盛土がされたため,本件コンクリート擁壁の耐力以上の負荷がかかったことによるものであることが認められる。
 そして,本件コンクリート擁壁の上に本件ブロック擁壁を設置し盛土することは,宅地造成規制法施行令5ないし7条に違反する行為である。
 以上によれば,被告Y2建設は,過失によって本件コンクリート擁壁の回転移動を生じさせたものというべきである。」
 「被告Y2は,…瑕疵の多くが,兵庫県南部地震の影響を受けて後発的に発生したものであり,当初から存在していたのではない旨主張する。
 しかし,…各瑕疵は,いずれも兵庫県南部地震と無関係に生じたことが明らかであるし,また,…各瑕疵も,兵庫県南部地震における本件土地周辺の震度が4(中震)に止まっていたことや(当事者間に争いがない。),本件建物において既に平成元年ころから壁に亀裂が入ったり扉の開閉が困難になるなどの故障が頻発していたことからすれば,右地震によって生じたものであるとはいえず,仮に,そうであったとしても,わずか震度4程度の揺れによって建物の軸組構造に影響が生じたのであれば,被告Y2による本件建物の設計・工事・監督自体に問題があったことを示しているというべきである。」

2 被告Y3の過失の有無
 「被告Y3は,本件請負契約に基づき,被告Y2から提出された本件建物の平面図を基に,立面図,矩計図,筋かいの軸組計算図及び仕様書を作成し,これらを本件土地の開発行為に関する検査済証を添付したうえ奈良県郡山土木事務所に提出して建築確認申請等の手続を行うとともに,本件建物の中間・完了検査を申請しこれらの検査に立ち会ったが,本件建物の設計及び工事監理は行わなかった。
 …一級又は二級建築士は,建物の設計及び工事監理をする意思もないのに設計者・工事監理者として届け出ることは許されないのであって,右建物の設計者・工事監理者として届け出た以上は,その業務を誠実に遂行すべき義務を負っているというべきである(建築士法18条1項参照)。
 …本件についてみるに,…本件建物の延べ面積は105.98平方メートルであるから,一級又は二級建築士でなければ,その設計及び工事監理をしてはならず,二級建築士である被告Y3は,本件建物の設計者及び工事監理者として届け出た以上,その業務を誠実に行うべき業務を負っていたというべきである。
 しかるに,被告Y3は,本件建物の設計及び工事監理を怠り,この結果,本件ブロック擁壁や本件建物には,前記…のような瑕疵が生じた。」

3 被告Y1の過失の有無
 「不動産業者は,顧客に対して土地・建物を販売する場合,売買契約に付随する義務として,その安全性について調査すべき義務を負っているというべきである。
 しかし,都市計画法や建築基準法に基づいて公的機関が検査すべきものとされている場合は,土地・建物について専門家による安全調査が実施されるのであるから,不動産業者としては,特段の事情がない限り,公的機関による検査の実施の有無について調査すれば足り,これに加えて,その安全性について独自に調査することまでは必要でないというべきである。」
 「<1>本件土地について,奈良県知事による完了検査がなされ検査済証が交付されていること,<2>本件建物について,建築主事による建築確認,中間・完了検査がそれぞれ行われ,検査済証を交付していること及び<3>被告Y1が,奈良県知事及び建築主事による右検査・確認がなされていることを調査したうえ,原告に対し本件土地及び本件建物を売り渡したことは当事者間に争いがない。
 以上によれば,被告Y1は,本件土地及び本件建物についての調査義務を尽くしていると認められ,これと異なる前提に立った原告の主張はその他の点を検討するまでもなく理由がない。」

4 原告の損害
 「<1>本件コンクリート擁壁が最大で16センチメートル(角度2.5度)回転移動し,壁面に多数の亀裂が走っていること,<2>本件建物が7センチメートル以上不等沈下していること,<3>本件建物の基礎に多数の亀裂や破断が見られること,<4>本件建物の軸組に多数の緊結不良が見られることに鑑みれば,本件コンクリート擁壁及び本件建物は,安全性を全く備えていないといわざるを得ない。
 そして,本件土地及び本件建物には,右のとおり,敷地の擁壁,建物の基礎,軸組といった主要部分にまんべんなく瑕疵が存在しており,もはや部分的な補修によっては安全性を回復することは不可能であるから,これらを取り壊したうえ,擁壁や建物を作り直すほかないというべきである。」

5 慰謝料
 「原告は,両親を引き取る予定で本件土地・本件建物を購入したのに,入居当初から様々な瑕疵に悩まされ,両親を引き取ることもできず,本件建物が倒壊するかもしれないという不安を感じながら今日に至ったことが認められる。
 このために原告が被った精神的損害は,少なくとも100万円に相当するというべきである。」

【解説】
1 工事業者被告Y2の責任について
  本件は,売主と建設業者が異なる建売住宅の事案ですので,XとY2との間には直接の契約関係はありません。したがって,XはY2に対して契約責任である瑕疵担保責任を追及することはできず,不法行為責任を追及するしかありません。
  建物の瑕疵に関する不法行為責任については,「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」がなければ認められないことは以前のコラムでも紹介していますが,これは単なる瑕疵担保責任における瑕疵よりも厳格なものです。
  本件ではY2の不法行為責任が認められていますが,基礎底盤の厚みが5~15㎝と不均一である,7㎝以上の不等沈下が生じているなど,その瑕疵の重大さから考えて当然の結論だと思います。

2 二級建築士被告Y3の責任について
  本件は,所謂「名義貸し」の事案です。Y3は,Y2から建築確認申請と検査の立会いを9万700円という低額で請け負っており,工事監理契約までは締結していませんでした。Y3としては,単に建築確認を取るために監理建築士の名義を貸したに過ぎないにも拘らず,高額の損害賠償責任を負わされる羽目になったということです。
  建築士の名義貸しについては,監理建築士としての責任を肯定する判例と否定する判例の両方があります。
  責任肯定説には,名義貸しが横行し,適切な工事監理を受けていないことが原因で,多数の欠陥建築が生み出されることを防ぐという政策的な意図が根底にあると考えられます。
  これに対し,責任否定説は,名義貸しという行為の当否は別にして,工事監理契約を締結していない以上,監理建築士としての責任を負わないというものです。実際のところ,低額の報酬で名義貸しを行っただけで,全く釣り合わない高額の損害賠償責任を負わされるというのは,建築士にとっては酷な面があると思います。一部の建築士を除く大多数の建築士の収入は,一般的に考えられている程多くはないようです。一方で,工事業者にとっては,細かい指示を出す監理建築士はいない方が工事を進め易いという思惑があります。名義貸しの事案で,より悪者はどちらかと訊かれれば,建築士ではなく工事業者であると答えざるを得ないところです。名義貸しを防ぐための方策としては,監理建築士の負う厳格な責任に見合った適正な金額の報酬が必ず支払われるようにする政策が必要だと考えられます。同じ専門家でも,医師の診療報酬であれば適正な金額が担保されているのにも拘らず,監理建築士の報酬は担保されないというのは,合理的と言えるのでしょうか。
  もっとも,Y3としては,名義貸しのリスクを十分承知の上で名義貸しを行ったのでしょうから,本判決の結論については仕方のないところです。

3 不動産販売業者被告Y1の責任について
  本判決は,「不動産業者としては,特段の事情がない限り,公的機関による検査の実施の有無について調査すれば足り,これに加えて,その安全性について独自に調査することまでは必要でない」と判示しています。
  しかし,公的機関による検査について,本当に検査を経ているから大丈夫なのかと訊かれれば,ノーと答えざるを得ません。工事監理報告書に基づいて,数回かつ短時間の検査を経ただけでは,とても検査されているから大丈夫とは言えないと思います。そもそも,もし本当にそれで大丈夫であれば,欠陥建築など生まれる筈はありません。適切な監理をしていない監理建築士の工事監理報告書を信用せざるを得ない実情があるからこそ,欠陥建築が生まれるとも言えます。
  もっとも,不動産販売業者としては,それ以上の調査を行うことは事実上無理がありますので,Y1の責任を否定した本判決の結論は妥当だと思います。

4 慰謝料について
  財産的損害を被った場合,その財産的損害の回復がなされれば精神的損害も回復されたと通常は考えられるので,建物の財産的損害額に加えて慰謝料が認められることはほとんどないことについては既に述べた通りです。
  しかし,本件では請求額満額である100万円が慰謝料として認容されています。もし,300万円で請求していれば,そのまま認容されていた可能性もあります。一体,何が違うのでしょうか。
  この点,結局のところ,財産的損害の回復がなされても回復できない精神的損害があるかどうかということだと考えます。
  本判決では,「両親を引き取る予定で本件土地・本件建物を購入したのに,入居当初から様々な瑕疵に悩まされ,両親を引き取ることもできず,本件建物が倒壊するかもしれないという不安を感じながら今日に至った」と,瑕疵の重大さ,不快感や不安感を持ち続けていた期間の長さに加えて,両親を引き取れなかったという事情までもが慰謝料認容の理由とされています。
  本判決は,建物に関する慰謝料の認定について,建替えを必要とする程の重大な瑕疵かどうか,受任限度を超える長期間であるかどうかという基本的な事情に加えて,各事案の周辺事情についても人間味のある考慮がなされる余地があることを示していると思います。

以上

注:本稿に記載されている法律的見解は,あくまでも当職の私見です。

H30.8.9 弁護士 今堀 茂
隣地工事による建物の不同沈下について,施工者にだけでなく施主に対する損害賠償請求までもが認められた判例のご紹介(京都地方裁判所平成26年9月17日判決)

隣地工事による建物の不同沈下について,施工者にだけでなく施主に対する損害賠償請求までもが認められた判例のご紹介(京都地方裁判所平成26年9月17日判決)

平成30年8月9日
弁護士 一級建築士 一級建築施工管理技士
 今 堀   茂

【はじめに】
 今回は,隣地における建築工事によって生じた建物の不同沈下について,その隣地工事の施工者と施主に対する損害賠償請求が認められた地裁判例(京都地方裁判所平成26年9月17日判決)のご紹介です。
 隣地工事によって建物が不同沈下したとして訴訟を提起しても,原因の特定と因果関係の立証の困難性のため,常に請求が認容されるとは限りません。これまでも,多くの被害者が苦汁をなめてきたと思われます。
 ところが,本件では,施工者だけでなく施主にまでその責任を認めました。その違いと理由は何にあったのか,知っておくべき事案と考え,ここにご紹介致します。

【事案の概要】
 本件は,京町家(以下「本件建物」という。)を所有するX1(実際は2名ですが,簡略化のため1名のみの表記とします。)と本件建物で呉服店を営む会社X2が,本件建物敷地の北側に隣接する土地における,施主Zが工事業者Yに発注したマンション建築工事の土地掘削工事によって,本件建物が不同沈下したとして,Y及びZに対し損害賠償を請求したという事案です。

【判決要旨】
 請求一部認容(約2億円の請求に対し,約485万円(X1に約199万円,X2に約286万円)の認容額)
1 本件マンション建築工事と本件建物の不同沈下との因果関係
 「本件土地の深さ2ないし3メートルの地盤は,以深の地盤と比較して,軟弱であり,土質工学上,掘削面から45ないし60度の範囲で地表に亀裂が生じる可能性があるところ,本件マンション土地掘削工事の後,本件土地の北端(本件マンション側)から2ないし3メートル南側に本件マンション土地との境界と平行に本件地割れが発生した。
 そして,本件マンション土地掘削工事は,本件建物との境界に近接した本件マンション土地を掘削し,特に,ラップルコンクリート撤去の際に約5.4平方メートル,二次掘削の際に約2.2平方メートルの掘削面が露出するものであった。なお,地盤の硬化は,薬液が地表に漏出して,浸透する範囲が確実でなかったり,ラップルコンクリート撤去と共に除去されたりして,土留めとして,本件土地の崩壊はともかく,変形を防止できたものとは認められない。」
 「しかしながら,他方,…以下のとおり,本件建物が,修復を必要とする,現在のような不同沈下及び変形に至ったことには,本件マンション土地掘削工事以外の要因の存在が認められる。」
 「本件マンション土地掘削工事の前,本件南側マンション建築工事において,本件建物の不同沈下及び変形が発生した。なお,その後の補修は一部に対するもので,金銭賠償により解決された部分もあったから,本件南側マンション建築工事の影響が全て回復されたとは認められない。」
 「したがって,本件建物の性質,本件既存建物の新築工事及び本件南側マンション建築工事によっても,現在,本件建物にみられる不同沈下及び変形を修復する必要がある損害が発生したと認められる。」
 「以上を総合考慮すれば,本件マンション土地掘削工事は,本件建物の現在の不同沈下及び変形を修復する必要がある損害の発生について,その2割に寄与したと評価するのが相当である。」
2 施工者の責任
 「本件マンション土地は,間口が狭く奥行が長いため,本件マンション土地に中高層住宅を建築する場合,本件土地との境界に近接した部分を掘削しなければならなかったところ,親杭横矢板による土留めは,その工程で掘削面の露出を避けられないため,背後地盤が崩壊することを防止できても,土質工学上,変形することは避けられなかったこと,しかも,薬液による地盤の硬化は,薬液が本件土地の地表に漏出し,その効果を疑わなければならなかったこと,被告Yは,事前調査によって,本件建物には既に不同沈下や不具合があり,基礎が本件土地上に乗っているだけで本件土地の地盤の変形による影響を受けやすいため,本件土地の地盤に変形が生じれば,本件建物の不同沈下や不具合が受忍限度を超えるおそれが高いことを認識し得たことが認められる。
 そうすると,被告Yとしては,本件土地の崩壊だけではなく,変形も防止するために,親杭横矢板等による土留めに頼るのではなく,本件土地の地盤を硬化する等,本件建物を下支えして,本件建物の不同沈下及び変形を防止する措置を講じるべきであったというべきである。
 したがって,これらの措置を講じなかった被告Yには,原告らに対する不法行為責任が認められる。」
3 施主の責任
 「被告Zは,本件マンション建築工事の注文主であるのと同時に,土地建物の有効利用に関する企画,調査,設計に加えて,建築工事等を目的とする者であるから,住宅密集地域における狭小地上の中高層住宅の建築について,十分な知識を有していると認められる。そして,本件マンション土地及び本件土地のように軟弱な地盤を掘削すれば,周辺土地に影響を及ぼし,特に隣接した本件土地で,掘削面に近接して建てられている本件建物に対し,何らかの損傷を生じさせることは,容易に認識し得たはずである。
 そうすると,被告Zは,被告Yに対し,本件マンション建築工事を注文するに当たり,又は,施工中でも,本件建物の損傷を防止するよう,適切な指示を与え,かつ,被告Yが採ろうとしている防止措置についての説明を受け,それを検討して,損傷防止に十分なものであることを確認した上で,本件マンション建築工事の注文又は指図をすべきであったというべきである。
 したがって,これらを行わなかった被告Zは,原告らに対し,被告Yと共同不法行為責任を負う。」

【解説】
1 本件マンション建築工事と本件建物の不同沈下との因果関係について
  本件で行われた土留め工法である親杭横矢板工法(オーガー等で削孔した穴に,親杭(H鋼)をほぼ等間隔で打ち込み,そのH鋼の間に横矢板をはめ込む土留めの在来工法)では,親杭と親杭の間を掘削してから横矢板を設置し横矢板背後と掘削面の隙間を土で埋め戻すまで,掘削面が露出することは避けられません。掘削面が露出すれば,程度の差こそあれ,掘削面付近での地盤の変形は避けられないところです。
  また,本件では,Yは掘削面付近の地盤について,薬液の注入による地盤改良を行ったようですが,薬液が地表に漏出するなどしており,浸透した範囲が確実でなく,土留めとしての効果はありませんでした。
  このような状況下において,本件マンション土地掘削工事の後,本件土地の北端(本件マンション側)から2ないし3メートル南側に本件マンション土地との境界と平行に本件地割れが発生したというのですから,本判決で,本件マンション建築工事と本件建物の不同沈下との因果関係について肯定されたことは当然でしょう。
  ところが,本件建物は,本件マンション建築工事が行われる前に,既に不同沈下を起こしていました。本件マンション建築工事以前に行われた本件建物敷地南側のマンション建築工事において,既に,本件建物の不同沈下が発生していたのです。この点が,本件の特異な部分です。
  南側のマンション建築工事については,当該工事業者との間で既に和解が成立していたようですが,一部は補修されたものの,金銭賠償により解決された部分もあったため,本判決では,本件南側マンション建築工事の影響が全て回復されたとは認められないと認定され,本件マンション土地掘削工事は,本件建物の現在の不同沈下及び変形を修復する必要がある損害の発生について,その2割に寄与したと評価するのが相当であると判示されました。この2割の寄与というのが妥当なのかどうかについては,判決文からのみでは読み取れませんが,いずれにしても感覚的なものが含まれていると思います。
2 施工者と施主の責任について
  本件において,施工者の責任が認定されたことは,上述の事情から当然のことだと思われますが,通常あまり認められない施主の責任までが認められたのには,以下のような事情がありました。
  施主Zは,土地建物の有効利用に関する企画,調査,設計に加えて,建築工事等を目的とする会社であり,住宅密集地域における狭小地上の中高層住宅の建築について,十分な知識を有していると認定されています。そのため,Zは,Yに対し,本件マンション建築工事を注文するに当たり,又は,施工中でも,本件建物の損傷を防止するよう,適切な指示を与え,かつ,Yが採ろうとしている防止措置についての説明を受け,それを検討して,損傷防止に十分なものであることを確認した上で,本件マンション建築工事の注文又は指図をすべきであったというのです。
  つまり,これは知識を有する専門家であればある程,その責任,即ち,注意義務は重くなるということを示しています。この傾向は,最近の判例に顕著に見られる傾向であると思いますので,専門家である法人や個人においては,襟を正して行かなければいけないところでしょう。

以上

注:本稿に記載されている法律的見解は,あくまでも当職の私見です。

H30.7.24 弁護士 今堀 茂
建築工事の瑕疵と未完成との区別基準が示された判例のご紹介(東京地方裁判所昭和57年4月28日判決)

建築工事の瑕疵と未完成との区別基準が示された判例のご紹介(東京地方裁判所昭和57年4月28日判決)

平成30年7月24日
弁護士 一級建築士 一級建築施工管理技士
 今 堀   茂

【はじめに】
 今回は,建築工事の「瑕疵」と「未完成」との区別基準が示された地裁判例(東京地方裁判所昭和57年4月28日判決)のご紹介です。
 本判決は,瑕疵と未完成との区別基準について,「工事が途中で中断し予定された最後の工程を終えない場合には,仕事の未完成ということになるが,他方予定された最後の工程まで一応終了し,ただそれが不完全なため補修を加えなければ完全なものとはならないという場合には仕事は完成したが仕事の目的物に瑕疵があるときに該当するものと解する」と判示しています。一見,当たり前のことが示された判例と言えそうなのですが,深く考えてみると疑問が湧いてきます。
 そこで,基本的な判例として,ここにご紹介致します。

【事案の概要】
 住宅建設販売会社X(請負人)は,Y(注文者)との間で住宅の新築工事請負契約を締結して工事(以下,「本件工事」という。)を行ったが,Yは,本件工事は,基礎工事に割栗を入れていないなど杜撰な部分や設計図通りの施工がされていない部分があり,完成していないとして請負残代金の支払いを拒否した。
 そこで,Xは,Yを被告として,請負残代金の支払いを求めて訴訟を提起した。

【判決要旨】
 請求認容
1 「まず一般的にいかなる場合に建物が完成したといえるかであるが,民法がその瑕疵が隠れたものか否かを問わないで,瑕疵修補請求を認めるなど請負人に厳格な瑕疵担保責任を課しているのは,一方では注文者に完全な目的物を取得させるためであるが,他方ではそれによって請負人の報酬請求権を確保するためである。即ち,目的物が完成しないと請負人は報酬を請求しえないことから,民法は請負人に重い瑕疵担保責任を課して注文者を保護する一方,それとの均衡から,できるだけ目的物の完成をゆるやかに解して,請負人の報酬請求を確保させ不完全な点があればあとは瑕疵担保責任の規定(民法634条)によって処理しようと考えているのである。(ほんのささいな瑕疵があるために請負人が多額の報酬債権を請求しえないとすれば,あまりにも請負人にとって酷である。)
 そこで目的物が不完全である場合に,それを仕事の未完成とみるべきか,又は仕事の目的物に瑕疵があるものとみるべきかは次のように解すべきである。即ち,工事が途中で中断し予定された最後の工程を終えない場合には,仕事の未完成ということになるが,他方予定された最後の工程まで一応終了し,ただそれが不完全なため補修を加えなければ完全なものとはならないという場合には仕事は完成したが仕事の目的物に瑕疵があるときに該当するものと解するのである。
 これを本件についてみると,被告の主張する別紙の不完全工事と称するものは,右にいう仕事の目的物の瑕疵に当るというべきであり,また,鑑定の結果によれば,本件建物の東側部分の基礎には当初の設計図と異なり割栗が入っていないが,基礎工事としては,ベタ基礎及び一部連続フーチング基礎,鉄筋コンクリート造りで一応の工程が終了していることが認められる。
 すると,本件建物が完成していないことを理由にしては,被告は原告に対し本件建物の受領と請負残代金の支払いを拒むことはできないというべきである。」
2 「瑕疵については,補修を要すべきものについてはすべてその工事を完了しており,もはや瑕疵とよぶべきものは存在していないことが認められる。」
3 「本件建物の基礎に割栗が入っていないことが認められるが,そのことによって,本件建物の基礎・土台工事が杜撰であったことを認めるに足りる証拠はない。
 かえって《証拠省略》によると,本件建物の基礎工事は厳密な構造計算によって設計されていて,割栗が入っている場合に比べてその強度においてなんら遜色のない状態であることが認められる。」

【解説】
1 瑕疵と未完成とを区別する理由
  建築工事の瑕疵と未完成とを区別する理由は,主に請負代金請求権の発生と契約解除権の有無にあります。
  つまり,建築工事が未完成の場合,請負人は請負代金を請求することができない一方で,注文者は損害を賠償して契約を解除することができます。反対に,建築工事が完成していれば,請負人は請負代金を請求することができる一方で,注文者は契約を解除することはできないのです。完成後は,「瑕疵ある完成」と考えて,瑕疵担保責任の適用範囲ということになります。
  これが建築工事の瑕疵と未完成とを区別する理由です。法律効果に大きな違いがありますので,その区別基準は重要です。
2 工程一応終了説
  本判例は,瑕疵と未完成との区別基準について,「工事が途中で中断し予定された最後の工程を終えない場合には,仕事の未完成ということになるが,他方予定された最後の工程まで一応終了し,ただそれが不完全なため補修を加えなければ完全なものとはならないという場合には仕事は完成したが仕事の目的物に瑕疵があるときに該当するものと解する」として,「工程一応終了説」を採用しています。現在の実務上も,この「工程一応終了説」が判例・通説理論とされているようです。
  確かに,予定された最後の工程まで一応終了していれば工事は完成しているという基準は,一見明確なように思われます。
  しかし,例えば,明らかに注文者の指定と異なるような施工であっても許されるとするならば,最後の工程を一応終了させることは簡単なことですので,施工者側に工事完成か否かを恣意的に決定させる権利を与えているようなもので,極めて不合理な結果を招きます。
  よって,最後の工程が一応終了しているかどうかという判断においても,それが客観的に債務の本旨に合致しているか否かを社会通念に従って判断する必要があると考えるべきです。
  結局,予定された最後の工程まで一応終了していれば工事は完成しているという基準は一見明確なようではあるが,価値判断を含めた判断になるので,それ程明確でもないというべきでしょう。例えば,重大な欠陥があって建物としての使用に堪えない場合や,重大かつ明白な約定違反がある場合には,工程が一応終了しているとは言えないのではないかということです。
3 当職としては,上記の工程一応終了説は正しい方向性のものであるとは思いますが,その工程が一応終了しているという判断については,各事案に応じた個別の判断にならざるを得ないと考えます。
  そうすると,結局,事案に応じた判断の集積によって,工程一応終了説の判断基準がより明確になることを待つしかないように思われます。

以上

注:本稿に記載されている法律的見解は,あくまでも当職の私見です。

H30.6.25 弁護士 今堀 茂
境界付近に建築する場合でなくとも隣地使用請求が認められた判例のご紹介(東京地方裁判所平成27年12月10日判決)

境界付近に建築する場合でなくとも隣地使用請求が認められた判例のご紹介(東京地方裁判所平成27年12月10日判決)

平成30年6月25日
弁護士 一級建築士 一級建築施工管理技士
 今 堀   茂

【はじめに】
 今回は,隣地との境界付近に建物を築造する場合でなくとも隣地使用請求が認められた判例をご紹介致します。
 民法209条1項本文は,「土地の所有者は,境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で,隣地の使用を請求することができる。」と隣地使用請求権を規定しています。これを文言通り素直に読めば,隣地使用請求権は境界付近に建物等を築造又は修繕する場合においてしか認められないことになりそうです。ところが,本判例は,「建物を築造する場所が境界又はその付近におけるか否かにかかわらず,隣地使用請求権が認められる」,「当該使用を請求する部分が所有する土地と隣接していることも要しない」と判示して,境界付近に建物等を築造又は修繕する場合には該当しない本件で,一般通行の用に供されている私道をコンクリートや鉄板で補強・養生する工事を行うことを認めました。
 建築工事を行う場合,足場等を設置するために,隣地を使用しなければならない場合は多いのですが,必ずしも,隣地所有者の承諾を得られるとは限りません。そういう困った状況に陥った施主や工事業者にとって,本事案は非常に参考になり,また,示唆に富んだ判例ですので,ここにご紹介致します。

【事案の概要】
 Xは,共有持分を有する土地上に7階建てのX自宅兼賃貸マンション(以下,「本件建物」という。)を建築する計画を立てた。
 しかし,Yらは,他の近隣住民と共に,本件建物を7階建てから3階建てに変更することを求め,本件建物の建築計画に反対する運動を行っていた。
 Xが本件建物の建築工事(以下,「本件工事」という。)を開始したところ,近隣住民が工事用車両の前に立ち塞がる等の事態が生じたことから,本件工事は一旦中断された。
 工事は再開されたが,中断から約1年後,工事車両が通行する通路(以下,「本件通路」という。)が一部陥没し,地中埋設ガス管が破損するなどの現象が生じ,本件工事は再度中断された。
 そこで,Xは,Yらに対して,民法209条1項の隣地使用請求権に基づき,Yらが共有持分を有する本件通路の一部にコンクリートや鉄板で補強・養生する工事を行うことの承諾及び妨害の禁止を求めて訴訟を提起した。

【判決要旨】
 請求認容
「民法209条1項は,土地の所有者は,境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で,隣地の使用を請求することができる旨を定めているところ,同条項は隣接する土地の相互利用を目的としたものであって,境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕する場合に限り隣地の使用を請求することを認めるものとは解されず,同条項に列挙された使用目的は例示的列挙であると解されるから,同条項に列挙された目的以外でも上記請求をすることができるものと解するのが相当である。
 …認定したところによれば,原告は,共有持分を有する本件建築予定地において本件建物を築造することを計画していること,その築造のために車両重量3トンから13トンの工事用車両を本件土地に出入りさせる必要があり,上記車両が本件建築予定地から公道に通じる唯一の通路である本件通路を通行することが必要であること,ところが,本件通路は上記車両が通行するのに十分な強度を有しておらず,本件建築工事のために上記車両が通行した結果,少なくとも路面の陥没等の損傷が生じたことがそれぞれ認められる。
 そして,本件建築予定地において7階建ての本件建物を築造することは商業地域とされた本件建築予定地の用途に適合するものであるところ,本件各工事は,別紙工事方法目録1及び2記載のとおり,本件土地上のL型側溝の下に砕石を敷くとともにベースコンクリートを打設する補修工事及び本件土地の私道部分を鉄板で覆うとともに端部をアスファルトで摺り合わせる養生工事からなり,これらの工事を行うことにより,本件建築工事用の車両が本件通路上を通行する上での支障を相当程度取り除くことが可能である上,本件各工事対象地の通路としての機能が改善されるものであるから,本件土地において本件各工事を行うことは,本件建築予定地に本件建物を築造するための本件土地の使用として必要な範囲に属するものであると認められる。
 したがって,原告は,被告らに対し,本件土地につき,本件各工事を行うために使用することを承諾するよう請求することができる。
 なお,本件建物は本件土地との境界線から2メートルの位置に築造されるものであって,本件建築工事を行うに当たり,物理的に上記境界線を越えて本件土地に進入することを要するものではないものの,上記のとおり,民法209条1項の趣旨に照らせば,同条項に列挙された使用目的は例示的列挙であると解され,本件において原告が本件土地の使用を必要とする事情は,本件建物を建築するのが本件建築予定地の境界又はその付近におけるか否かということとは直接関係しないものであるから,原告が建物を築造する場所が境界又はその付近におけるか否かにかかわらず,隣地使用請求権が認められるというべきである。」

【解説】
1 「例示的列挙」「必要な範囲」
  本判例は,民法209条1項について,隣接する土地の相互利用を目的としたものであるとして,同条項に列挙された使用目的は「例示的列挙」であるから,同条項に列挙された目的以外でも隣地使用請求をすることができると判示しています。つまり,隣地使用請求は,隣接する土地の相互利用という目的に適合していれば,「必要な範囲」で認められるということです。
  そうすると,隣地使用請求は,隣地の一部ではなく全体を使用する場合であっても,それが「必要な範囲」であれば認められるということになります。実際,隣地全体の使用請求が認められた判例(東京地方裁判所平成23年9月26日判決)があります。もっとも,この判例の事案は,隣地が更地(空き地)だったようですので,必要性・相当性ありとして隣地全体の使用が「必要な範囲」であると認定されたのでしょう。つまり,工事をするのに隣地全体の使用が不可欠かどうか(必要性),また,その隣地全体の使用で隣地所有者等にどの程度の受忍を課すか(相当性)という点について,それぞれ必要かつ相当と判断したものと考えられます。
  いずれにしても,個別の事案で隣地使用が認められるか否かについては,その都度,個別具体的な検討を要するでしょう。
2 立ち入りが許されない「住家」
  次に,本判例とは直接関係ありませんが,隣地使用請求権を定めた民法209条1項は,その但書きで「ただし,隣人の承諾がなければ,その住家に立ち入ることはできない」としています。
  この但書きに関しては,オフィスビルの屋上や非常階段は,立ち入っても隣人の生活の平穏を侵害しないので,民法209条但書きが「承諾なしでは立ち入りを認めない」と定めている「住家」には当らないと判示した判例(東京地方裁判所平成11年1月28日判決)があります。「住家」に当たるか否かの判断においても,隣地所有者等にどの程度の受忍を課すか(相当性)という点がポイントになると思われます。
3 まとめ
  以上の通り,隣地使用請求は,訴訟を提起すれば,一般的に考えられているよりも認められやすいようです。
  工事等をする際に隣地所有者等から隣地使用の承諾を得られない場合には,上記の判例を示すなどして理解を得られるよう努力すべきです。しかし,本判例は,それでも承諾を得られなければ訴訟を提起するという選択肢もあり得るんだという勇気を与えてくれる判例だと思います。
  また,一方で,隣地使用の承諾を求められた側の隣地所有者も,承諾をしないことが,必ずしも正当な権利行使であるとは限らないことを念頭に置いておいた方が良いでしょう。場合によっては,損害賠償を逆に求められることもあるかもしれませんので,要注意です。

以上

注:本稿に記載されている法律的見解は,あくまでも当職の私見です。

H30.4.13 弁護士 今堀 茂
設計図からの無断の変更が瑕疵ではないとされた判例のご紹介(名古屋高等裁判所平成27年5月13日判決)

設計図からの無断の変更が瑕疵ではないとされた判例のご紹介(名古屋高等裁判所平成27年5月13日判決)

平成30年4月13日
弁護士 一級建築士 一級建築施工管理技士
 今 堀   茂

【はじめに】
 今回は,建築請負契約において,施主からの承諾を得ないで設計図から工事内容を変更しても,それがむしろ適切なものであったために瑕疵とは認められないとされた高裁判例(名古屋高等裁判所平成27年5月13日判決)のご紹介です。
 本件では,設計図に記載されていた鉄骨柱の内ダイアフラム(柱の内部に梁のフランジの謂わば延長となる鉄板を入れて,柱と梁の接合部分の剛性を高めるもの)が施工されていないことが瑕疵にあたるか否かが主な争点とされていたところ,内ダイアフラムの未施工が第一審では瑕疵と認定されたのに対し,控訴審では瑕疵ではないと認定され建築工事業者側が逆転勝訴しました。地裁と高裁で何故このような認定の違いが生じたのか,非常に興味深い判例ですので,ここにご紹介致します。

【事案の概要】
 Xは建築工事業者であるYに対して鉄骨2階建ての車庫(以下,「本件建物」といいます。)の建築工事を請負代金600万円で注文し,Yはこれを建築しました。
 ところが,Xは,鉄骨の実際の厚みが設計上の厚みよりも若干薄い点や設計図に記載されていた内ダイアフラムが未施工である点等複数の瑕疵の存在を主張して,建替費用等として請負代金を上回る約900万円(控訴審で約970万円に拡張)の損害賠償請求訴訟を提起しました。
 第一審では,鉄骨の厚みが薄い点については瑕疵とは認めませんでしたが,内ダイアフラムの未施工については瑕疵と認定されました。
 そこで,Xは上記第一審判決を不服として控訴したというのが本件事案の概要です。

【判決要旨】
 控訴棄却
 「本件建物に使用されている柱材の板厚は8.2ミリメートルないし8.4ミリメートル(本件契約の設計上は9ミリメートル),通しダイアフラムの板厚は9.1ミリメートル(同じく9ミリメートル),梁材のフランジの板厚は7.4ミリメートル(同じく8ミリメートル)であること,建物の建築に使用できる鋼材は,一般に,日本工業規格上の品質等に応じて差異があるものの,長さや幅,板厚について,設計上の寸法と実際に使用される鋼材の寸法との間に多少の誤差があっても許容されていることが認められる。
上記認定の事実によれば,本件建物に使用されている柱材等の板厚が本件契約の設計上のそれと多少異なることから,直ちに瑕疵に当たると認めることはできず,他にこれが瑕疵に当たると認めるに足りる証拠はない。
 …柱材の一部の板厚を6ミリメートルから9ミリメートルに変更したのは,被控訴人(工事業者Y)の判断であり,そのことについて控訴人と協議をしたものではなく,しかも,その理由は本件建物の構造耐力を増すことを目的としていたことに照らすと,一般の場合と同様,構造耐力に支障のない範囲内で資材を使用することが本件契約の内容になっていたということができる。そうすると,日本工業規格上の品質等に応じて一般に許容されている誤差すら許さないほど厳格に,板厚を寸分違わず9ミリメートル等とすることを特に合意し,それが契約の重要な内容になっていたとまで認めることはできず,他にそのように認めるに足りる証拠もない。」
 「内ダイアフラムは,高さの異なる梁材が仕口に溶接される場合で,構造耐力を補強する必要があるときに施工されるものであるが,本件図面において内ダイアフラムを施工すると記載されている上記仕口のように,梁背の差が100ミリメートル未満のときは,内ダイアフラムを施工するとかえって構造耐力上の支障を生じる場合があること,そのような場合,ハンチを設けたり,リブプレート(構造耐力を補強する部材)を溶接したりするなど別の補強方法を採るのが建設業界の一般的理解であること,被控訴人(工事業者Y)は,このような一般的に採られている方法に基づいて,内ダイアフラムの施工に代えてリブプレートを溶接したものであり,これが溶接されている仕口は構造耐力上も支障のないことが認められる。また,本件の場合,内ダイアフラムの施工に代えてリブプレートを使用することは,かえって構造耐力を強めることになるのであって,上記のような一般的に採られている方法に背いてまで内ダイアフラムを施工することを特に合意し,それが本件契約の重要な内容になっていたと認めるに足りない。
 これらの事情に照らせば,被控訴人としては,内ダイアフラムの施工に代えてリブプレートを使用する旨を控訴人(X)に対し事前に説明しておくことが望ましかったといえるものの,内ダイアフラムが施工されていないことをもって,瑕疵に当たるということはできない。」

【解説】
1 第一審と控訴審との判断の違い
  第一審と控訴審とでは,鉄骨の厚み不足については瑕疵と認めないという点では同じでしたが,内ダイアフラムの未施工については,第一審で瑕疵と認定されたものが控訴審では瑕疵と認定されず,判断が逆転しました。
  控訴審の判断は正しいと思いますが,このような逆転が生じた原因には,2通り考えられます。1つ目は,第一審の裁判官が建設業界における現場調整の常識や現実的な技術的問題を考慮せず,単純に形式的に設計図と実際の施工を比較してしまったという可能性です。2つ目は,第一審において,被告側が現場調整の常識や現実的な技術的問題を主張できていなかったという可能性です。建築訴訟は非常に専門的な知識を必要とする分野ですので,代理人の争い方や裁判官の知識の有無によって結果が変わってくることがあるのではないかと思っています。もっとも,付調停になれば一級建築士等の専門家が委員となるので,そのような事態は避けられることが多いのではないでしょうか。
2 現場調整について
  建物の建築工事においては,設計図通りに全て施工されることはまずあり得ません。設計図というのは,建物の概要が記載されているに過ぎないものと考えた方が良いでしょう。実際,打合せを経て,間仕切りの位置や設備の仕様等の詳細は変更されるものですし,また,打合せや施主の承認がなくても,施主がこだわっていない部分については,強度や施工上の理由等から変更されることがあります。これを「設計調整」「現場調整」などと言いますが,こういう建築工事における現実を知らなければ,「設計図と違うから瑕疵だ。」という主張がなされてしまうということになります。
3 内ダイアフラムの技術的問題
  本判例では「梁背の差が100ミリメートル未満のときは,内ダイアフラムを施工するとかえって構造耐力上の支障を生じる場合がある」と記載されていますが,これは狭い部分の鉄骨の溶接の難しさに起因することです。つまり,ダイアフラム同士が近すぎると良質な溶接が不可能となり,構造耐力上支障が生じてしまうということを指摘しているのです。この場合,別の補強方法を採用すれば良いだけの話で,実際,本件建物の当該部分はリブプレートで補強されています。この建設業界の常識を第一審の裁判官が知っていれば,これを瑕疵であるなどとは認定しなかった筈ですので,2つの可能性として挙げた前記原因は両方共存在したのではないでしょうか。つまり,第一審では,被告側が現場調整の常識や内ダイアフラムの現実的な技術的問題を主張できておらず,そのために,裁判官は建設業界における建設業界の常識や技術的問題を全く考慮せず,単純に形式的に設計図と実際の施工を比較してしまったというストーリーだったのではないかと推測されます。
4 契約の重要な内容
  本判例は,工事内容は適法であり瑕疵ではないというものですが,適法であっても瑕疵であると認定された判例があります。以前にご紹介したことがある最高裁判所平成15年10月10日判決です。
同判例は「本件請負契約においては,上告人及び被上告人間で,本件建物の耐震性を高め,耐震性の面でより安全性の高い建物にするため,南棟の主柱につき断面の寸法300mm×300mmの鉄骨を使用することが,特に約定され,これが契約の重要な内容になっていたものというべきである。そうすると,この約定に違反して,同250mm×250mmの鉄骨(建築基準法違反ではない。)を使用して施工された南棟の主柱の工事には,瑕疵があるものというべきである。」と判示しました。つまり,「特に約定」(こだわり)され「契約の重要な内容」となっている部分については,適法であっても請負契約上瑕疵になるということです。
  この点については,誤解のないように理解しておかなければいけません。
5 教訓
  以上の通りですが,施工者としては,いくら適法かつ合理的とはいえ,施主の承諾を得ずに勝手に現場調整により工事内容を変更することは避けるべきであり,少なくとも変更に関する説明はしておいた方が良いでしょう。また,紛争に発展してしまっても慌てずに,合理的な現場調整であることを主張していくべきです。
  一方で,施主としては,「設計図と異なるから瑕疵だ。」などと単純な考えで争いに発展させるのではなく,冷静に常識や技術的観点から瑕疵なのかどうかを判断すべきです。その場合は,専門家への相談は必須となるでしょう。
  本判例は,施主と施工者の双方に少なからず問題があったのではないかと思わせる事案です。

以上

注:本稿に記載されている法律的見解は,あくまでも当職の私見です。

H30.3.15 弁護士 今堀 茂
住宅の不同沈下による損害として建替費用や慰謝料まで認められた判例のご紹介(京都地方裁判所平成24年7月20日判決)

住宅の不同沈下による損害として建替費用や慰謝料まで認められた判例のご紹介(京都地方裁判所平成24年7月20日判決)

平成30年3月15日
弁護士 一級建築士 一級建築施工管理技士
 今 堀   茂

【はじめに】
 今回は,住宅の不同沈下による損害として建替費用や慰謝料までも認められた地裁判例(京都地方裁判所平成24年7月20日判決)のご紹介です。
 建物の不同沈下に関する訴訟においては,損害として建替費用が認められることは少なく,良くても鋼管圧入工法による補修費用までしか認められないことが多いというのが実情だと思います。また,その場合でも,設計監理者の責任までは認められないということが多いと思います。
 ところが,本判例は,補修費用までしか認められないとする付調停段階の委員会の意見があったにも拘らず,損害として建替費用だけでなく慰謝料まで認め,その責任を施工者だけでなく設計監理者にまで負わせました。
 この事件については,様々なドラマがあったことが伺われるのですが,施工者や設計者だけでなく,弁護士としても非常に考えさせられる興味深い判例ですので,ここにご紹介致します。

【事案の概要】
 Xは,設計事務所Yに自宅新築工事の設計・監理を,また,工務店Zに当該工事を依頼した。ところが,当初設計では全面ベタ基礎であったにも拘らず,Zが,Y担当者であったY2に指示を仰いだ上で,一部を布基礎に変更したこと等が原因で,本件建物に,最大約30mmで,Xが眠っていると床の傾きで気分が悪くなる程の不同沈下が発生してしまった。
 そこで,Xは,Yとの間で締結した設計・監理契約又はZとの請負契約の対象である本件建物に瑕疵があったとして,設計監理者であるY及びY担当者であった一級建築士Y2に対して設計・監理契約上の債務不履行及び不法行為に基づき,Yの代表取締役であるY1に対して取締役の第三者に対する責任に基づき,請負人であるZに対して請負契約上の瑕疵担保責任及び不法行為に基づき,Zの代表取締役であるZ1に対して取締役の第三者に対する責任に基づき,それぞれ,本件建物の建替費用等約4200万円の損害賠償請求訴訟を提起した。
 裁判所は付調停とし,一級建築士等を構成員とする調停委員会は建替費用までは認めず,また,提示された調停案における補修費用は約680万円に止まった。これをXは拒否し,裁判所に鑑定を申請したところ,建替相当との鑑定結果であったため,裁判所は,判決において,建替費用だけでなく慰謝料まで損害として認めた。

【判決要旨】
1 主文「Y,Y2,Z及びZ1は,Xに対し,連帯して3760万9885円…を支払え。」
2(1) 基礎コンクリートのかぶり厚が不足している(ほぼ0~37.6㎜)。
 (2) 布基礎に一部を変更したことで,地耐力不足及び許容範囲を超えるねじりモーメントが発生している。
 (3) 基礎配筋が一般的な建築基準に適合していない。開口補強なし,一部の下筋不存在等の瑕疵が存在する。
 (4) 地盤の安全性についての検討が不足していた。
 (5) 躯体を維持したまま補修工事を行うことは不可能であり,解体・建替えを行うしかない。
3(1) 施工者Zは,瑕疵担保責任及び不法行為責任を負う。
 (2) Z代表者であるZ1は,取締役の第三者に対する責任(会社法429条1項)を負う。
 (3)  監理者Y及び担当者Y2は,Xとの監理契約は,重要な工程においてのみ工事現場を確認し,設計通りの施工がなされていることを確認するという限りのもの(重点監理)にすぎず,通常よりも監理者の責任を軽減するものであったと主張し,その根拠として設計・監理契約の代金が相場に比して廉価であること等を挙げるが,当事者間で交わされた契約書にはその旨の明確な記載はなく,建築の知識を有しないXが,設計・監理契約の相場を把握したうえ監理者の責任を軽減することを容認していたとも認められない。
 (4) Y及びY2は,適切に監理せずに施工者の杜撰な基礎工事を見逃し,様々な欠陥を抱える建物を完成させたことから,注意義務を怠ったと言え,債務不履行責任及び不法行為責任を負う。
 (5) Y代表取締役Y1については,本件工事の設計・監理への関与が不明であり,その責任を認めることはできない。
4(1) 本件建物の建替費用 2677万5000円
 (2) 設計・監理費用    362万6000円
 (3) 建替中の借家料     67万5000円
 (4) 転居費用        37万5900円
 (5) 慰謝料            100万円
    本件建物の欠陥は,建物の構造上の安全性に関わるものであり,その解決のための交渉及び訴訟が相当長期にわたっていることや,本件建物の床は最大約30mm傾斜しており,床で寝ていると気分が悪くなるなど一部生活に支障が生じていることその他本件で現れた一切の事情を考慮すると,本件建物に居住することで被ったXの精神的苦痛は,財産的損害の賠償によっては償うことのできないものとして別途賠償されるべきであり,その額は100万円が相当である。
 (6) 鑑定調査費用     215万7985円
 (7) 弁護士費用          300万円
 (8) 合計        3760万9885円
5 本件建物は社会経済的な価値を有するものでないと言わざるを得ず,事実上本件建物に居住していたことをもって,本件建物に居住していた間の居住利益を損益相殺の対象とすることは許されない。

【解説】
1 設計監理者の重い責任
  当然ですが,基礎について異種工法を安易に混在させるべきではありません。Y及びY2が,何故このような設計変更を承認してしまったのか不可思議なところです。
  また,本件建物基礎の施工の杜撰さから考えて,Y及びY2は,ほとんど監理できていなかったと推測されます。不同沈下のような大きな瑕疵の場合には,施工者だけでなく監理者も訴訟において被告とされることが多いのですから,仮に重点監理であったとしても,基礎コンクリートの打設前には鉄筋の配筋検査くらいはすべきでしょう。
不法行為責任が発生する「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは,居住者等の生命,身体又は財産を危険にさらすような瑕疵をいい,建物の瑕疵が,居住者等の生命,身体又は財産に対する現実的な危険をもたらしている場合に限らず,当該瑕疵の性質に鑑み,これを放置するといずれは居住者等の生命,身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合には,当該瑕疵は,「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」に該当します(平成23年7月21日最高裁判決)。逆に言えば,「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」が認められれば,それ相当な瑕疵ですから,損害額も高額となり,慰謝料まで認容される場合があります。不同沈下の可能性に関しては,施工者はもちろんのこと,設計監理者も,地盤の安全性の検討,基礎工法の選定,基礎工事の施工及び監理には,十分に注意が必要です。
2 取締役の第三者に対する責任について
  会社が第三者に損害を与えた場合,取締役に悪意・重過失があれば,その取締役は第三者に対して損害賠償責任を負います(会社法429条1項)。
  本判例では,設計事務所の代表者は責任を認定されませんでしたが,施工会社の代表者は責任を認定されました。
  この違いは,設計事務所の代表者は,本件建物の設計・監理に実際に関与していなかったのに対し,施工会社の代表者は,従業員数名の小さな工務店であったので,本件建物の施工に実際に関与していたことによります。施工会社が大きな会社であれば,代表者は実際には施工には関与しないので,取締役の第三者に対する責任を負わされるということはほとんど考えられないでしょう。
3 付調停について
  付調停というのは,裁判所が,その事案について,和解に適する事件であるとか,専門家の知見を必要であると考える場合に,専門家を調停委員として調停に付する(訴訟手続きから調停手続きへ変更する)ことです。
  建築訴訟においてはその専門性から付調停になることが多いのですが,その場合,裁判所は一級建築士等の専門家である調停委員の判断を概ね尊重します。本件でも,調停段階では,裁判所も調停委員の意見を尊重していたと思われますし,現に,補修費用約680万円という調停委員会案を当事者へ提示しています。
  ところが,本件では,Xがこれに応じす,裁判所鑑定に進んだところ,建替相当という鑑定結果が出たということです。
  裁判所は,この鑑定結果に基づいて調停委員会の意見を覆し,建替工事費用を損害として認めたのです。
  専門家によっては意見の分かれるような事案においては,裁判所鑑定まで進むことには大きなリスクを伴うと言えるでしょう。
4 教訓
  不同沈下のような大きな瑕疵の場合,損害額が高額となり,慰謝料まで認められる場合があります。設計や施工において重要なポイントでは,きっちりと検討・確認するべきです。特に,基礎工事は躯体を維持したままの補修工事は困難ですので,少なくとも,現場での配筋検査は実施する必要があります。また,施工者,監理者,施主は,それぞれの立場で自身のために配筋写真を撮っておくべきでしょう。
  なお,設計監理者としては,重点監理のみの契約を締結するのであれば,契約書に明確な文言でその旨を記載しておくべきです。監理報酬が低目だから重点監理であるなどという言い訳は通用しないことを肝に銘じておくべきです。

以上


注:本稿に記載されている法律的見解は,あくまでも当職の私見です。

H30.2.16 弁護士 今堀 茂
中途解約された設計監理業務の報酬額に関する判例のご紹介(大阪地方裁判所平成24年12月5日判決)

中途解約された設計監理業務の報酬額に関する判例のご紹介(大阪地方裁判所平成24年12月5日判決)

平成30年2月16日
弁護士 一級建築士 一級建築施工管理技士
今 堀   茂

【はじめに】
 今回は,建物の設計監理業務が中途解約された場合の報酬額に関する地裁判例(大阪地方裁判所平成24年12月5日判決)のご紹介です。
 建物の設計監理業務が中途解約された場合,設計者・監理者のそれまでの出来高の報酬額について,しばしば争いになることがあります。
 本判例は,設計報酬と監理報酬の割合について明確な合意がなかった場合でも,設計・監理報酬の基準に関する国土交通省告示15号を参考にして,その割合を認定した興味深いものですので,ここにご紹介致します。
 また,本判例は,建設工事費用を一定の金額内に収めて設計するという予算の合意があったかのかどうかという争点についても判断しており,この点でも興味深いものです。

【事案の概要】
 設計事務所Xと依頼者Yとは,Yの自宅新築工事の設計・監理業務委託契約を締結した。設計報酬と監理報酬の比率に関する合意はなく,総報酬は400万円であった。契約時に想定していた工事金額は約5000万円であり,「総工事契約金額が6000万円を超える場合には,協議の上,設計・工事監理業務報酬額を見直す」という特約があった。
 ところが,実施設計にて工事業者4社に見積もらせたところ,見積額は7300~7500万円であった。
 Yは,見積額が高額となったことに不満を訴え,Xが減額案(キッチン等を変更し,見積額約5700万円)を提示しても全く協議に応じなくなってしまった。そこで,Xは,止むを得ず設計・監理業務委託契約を解除し,設計分の報酬残金として251万円(既払金100万円)及び遅延損害金の支払いを求めて提訴した。

【判決要旨】
1 Yは,Xに対し,既払金100万円を差し引いた204万円及び遅延損害金を支払え。
2(1) 契約時に想定されていた工事金額(約5000万円)が,XとYとの間で共通認識になっていても,Yの要望によって建設工事費は左右される。
 (2) 設計・施工一貫ではなく,建築士に設計を委託する場合,完成した設計に基づいて施工者が見積もりを出して初めて具体的な建設工事費が示される。
 (3) 「総工事金額が6000万円を超える場合」という文言自体,総工事費が6000万円を上回る可能性があったことを示している。
 (4) 仮に絶対的な上限を6000万円とするなら,その内容を特約として設ければよかっただけのことである。
 (5) したがって,Xに,予測されていた5000万円~6000万円の建設工事費内で設計する法的義務があったとは言えない。
 (6) よって,XとYとの間で予算の合意があったとは認められない。
3(1) 設計報酬と監理報酬の比率に関する明確な合意がないので,国交省告示15号(延べ面積200㎡,設計73.65%,監理26.35%)を参照するのが相当である。
 (2) 北側隣地との間に設置する6mの壁についての特殊な技術的検討を行っており,相当程度の技術的価値が設計業務にあるので,設計側に比重を置き,報酬の比率は,設計:監理=80:20とするのが相当である。
 (3) 建築確認申請の仮受付も済ませ,減額案も示していたことから,設計業務の内95%は終了していた。
 (4) よって,設計報酬は下記計算式の通り304万円であり,これから既払金100万円を控除すれば残額は204万円となる。
   (計算式) 400万円×80%×95%=304万円

【解説】
1 予算の合意の有無について
 Yは,Xとの間の共通認識として,建設工事費の予算は5000万円とされていたからこそ,設計監理報酬はその8%である400万円とされたのであり,また,Xは,建設工事費については6000万円を超えることはないと説明していたのだから,Xが提案したY指定のキッチン等をグレードダウンした内容の建設工事費約5700万円の減額案では,Yの要望に応える設計にはなっていないと主張していました。
 仮に,この事件で予算の合意があったと認定されていたら,予算オーバーの設計では債務不履行であると認定されてしまっていた可能性があります。
 しかし,裁判所は,予算の合意があったとは認定しませんでした。
 これは,「総工事契約金額が6000万円を超える場合には,協議の上,設計・工事監理業務報酬額を見直す」という特約の存在が大きかったと思います。もしも,絶対的な上限を6000万円とするのであれば,「上限6000万円」と明記すればよかっただけのことですし,「総工事契約金額が6000万円を超える場合」と記載している以上,金額が6000万円を超える可能性があることを想定しているとしか考えられません。契約書に記載する文言,特に特約の文言は重要です。
2 設計報酬と監理報酬の割合について
 本判決において,裁判所は,設計報酬と監理報酬の割合を,設計・監理報酬の基準に関する国交省告示15号を参考にして判断しました。同告示15号では,本物件が該当する延べ面積200㎡の場合は,設計73.65%,監理26.35%というのが,報酬割合の基準となっているところ,本件においては,北側に高さ6mの壁を設置するなどの特殊な設計をしていることから,これを設計に比重を置いて修正し,設計80%,監理20%,即ち,設計報酬320万円,監理報酬80万円と認定しました。
 その上で,裁判所は,設計業務はほとんど完了しているとして,95%の出来高を認めたのです。
 つまり,裁判所は,当事者間に設計報酬と監理報酬について明確な合意がなかった本件において,国交省告示15号や常識に照らして契約内容を解釈したということになります。契約書の文言はもちろん重要ですが,何も記載されていない場合でも,契約内容については何らかの参考になる基準や常識を用いて判断され得るということです。
3 教訓
 2011年の東日本大震災をきっかけに始まった建設工事費の高騰は,2020年の東京オリンピックを控えて,現在も未だ続いています。このように 工事費が高騰している場合,本件のようなトラブルは容易に起こり得るところです。
 設計者としては,契約時には,全ての要望を取り入れた場合,工事費が想定よりも高額となる場合があることを十分に説明しておく必要があります。また,もし見積りが高額になってしまった場合には,その見積書を漫然と直ぐに依頼者に見せるのではなく,想定金額内に収まる減額案を作成し,2種類以上の見積書を同時に依頼者に見せ,要望と建設工事費用のバランスについて十分に説明し理解してもらうというプロセスが必要になると思います。しかし,十分に説明しても,必ずしも依頼者の納得を得られるとは限りません。紛争になってしまった場合には,契約書に記載されている文言が極めて重要となります。特に,「特約」には要注意です。「特約」の文言の記載次第で,設計者に有利にも不利にもなり得ます。
 また反対に,依頼者としては,設計してもらう建物について,高額になっても良いから要望を重視するのか,あるいは,予算を重視するのかをはっきりと設計者へ伝え,予算の合意をしたいのであれば,明確に契約書に記載してもらうべきです。もっとも,予算の合意をする場合には,全ての要望が叶うことはまずあり得ないということを肝に銘ずべきです。設計者と依頼者との間で,要望と建設工事費用のバランスについての認識を共有できていれば,コストパフォーマンスの高い良い設計が完成する筈です。

以上

注:本稿に記載されている法律的見解は,あくまでも当職の私見です。

H29.3.8 弁護士 今堀 茂
共同相続された預貯金債権も遺産分割の対象となるとした最高裁判例のご紹介(最高裁判所平成28年12月19日決定)

共同相続された預貯金債権も遺産分割の対象となるとした最高裁判例のご紹介(最高裁判所平成28年12月19日決定)

平成29年3月8
弁護士 今 堀   茂

【はじめに】
 平成28年12月19日,最高裁において,相続に関する極めて重要な決定がなされました。
 最高裁は,本決定以前は,預貯金債権は,原則として相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割され,遺産分割の対象とはならないとしていました。
 ところが,最高裁は,本決定において,預貯金債権は遺産分割の対象となると,これまでとは全く逆の判断を行い,判例を変更したのです。
 この判例変更は,相続に関する今後の実務へ大きな影響を与えるものと考えられますので,ここにご紹介致します。

【事案の概要】
1 本件は,平成24年3月に死亡した被相続人Aの共同相続人であるXとYとの間の遺産分割申立事件である。
 Aには,不動産(約260万円相当)と預貯金4000万円前後(以下,「本件預貯金」という。外貨預金36万4600ドルを含む。)の遺産があったが,Yは,Aから,特別受益に当たる約5500万円の贈与を受けていた。なお,XとYとの間で本件預貯金を遺産分割の対象に含める合意はされていなかった。
2 原審は,本件預貯金は,相続開始と同時に当然に相続人が相続分に応じて分割取得し,相続人全員の合意がない限り遺産分割の対象とならないなどとした上で,Xが本件不動産を取得すべきものとしていた。

【決定要旨】
 破棄差戻し。
 「遺産分割の仕組みは,被相続人の権利義務の承継に当たり共同相続人間の実質的公平を図ることを旨とするものであることから,一般的には,遺産分割においては被相続人の財産をできる限り幅広く対象とすることが望ましく,また,遺産分割手続を行う実務上の観点からは,現金のように,評価についての不確定要素が少なく,具体的な遺産分割の方法を定めるに当たっての調整に資する財産を遺産分割の対象とすることに対する要請も広く存在することがうかがわれる。」
 「具体的な遺産分割の方法を定めるに当たっての調整に資する財産であるという点においては,本件で問題とされている預貯金が現金に近いものとして想起される。」
 「預金者が死亡することにより,普通預金債権及び通常貯金債権は共同相続人全員に帰属するに至るところ,その帰属の態様について検討すると,上記各債権は,口座において管理されており,預貯金契約上の地位を準共有する共同相続人が全員で預貯金契約を解約しない限り,同一性を保持しながら常にその残高が変動し得るものとして存在し,各共同相続人に確定額の債権として分割されることはないと解される。そして,相続開始時における各共同相続人の法定相続分相当額を算定することはできるが,預貯金契約が終了していない以上,その額は観念的なものにすぎないというべきである。預貯金債権が相続開始時の残高に基づいて当然に相続分に応じて分割され,その後口座に入金が行われるたびに,各共同相続人に分割されて帰属した既存の残高に,入金額を相続分に応じて分割した額を合算した預貯金債権が成立すると解することは,預貯金契約の当事者に煩雑な計算を強いるものであり,その合理的意思にも反するとすらいえよう。」
 「ゆうちょ銀行は,通常貯金,定額貯金等のほかに定期貯金を受け入れているところ,その基本的内容が定期郵便貯金と異なるものであることはうかがわれないから,定期貯金についても,定期郵便貯金と同様の趣旨で,契約上その分割払戻しが制限(郵便貯金法59条,45条1項,2項)されているものと解される。そして,定期貯金の利率が通常貯金のそれよりも高いことは公知の事実であるところ,上記の制限は,預入期間内には払戻しをしないという条件と共に定期貯金の利率が高いことの前提となっており,単なる特約ではなく定期貯金契約の要素というべきである。しかるに,定期貯金債権が相続により分割されると解すると,それに応じた利子を含めた債権額の計算が必要になる事態を生じかねず,定期貯金に係る事務の定型化,簡素化を図るという趣旨に反する。他方,仮に同債権が相続により分割されると解したとしても,同債権には上記の制限がある以上,共同相続人は共同して全額の払戻しを求めざるを得ず,単独でこれを行使する余地はないのであるから,そのように解する意義は乏しい。」
 「預貯金一般の性格等を踏まえつつ以上のような各種預貯金債権の内容及び性質をみると,共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は,いずれも,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。」

【解説】
1 これまでの判例と実務
 これまでの判例(最高裁平成16年4月20日判決,最高裁平成22年10月8日判決等)では,定額郵便貯金債権以外の預貯金債権は,相続人間で遺産分割の対象とする合意がない限り,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割され,各共同相続人の分割単独債権となるので,遺産分割の対象とならないとされていました。
 したがって,これまでの判例理論によれば,相続人は,遺産分割協議が成立していない段階でも,銀行等の金融機関に対し,自身の法定相続分に応じた金額について預金の払い戻しを請求できる筈でした。
 ところが,多くの金融機関は,遺言があるなどの場合における二重払いの危険や相続人間の紛争に巻き込まれるのを防止するために,原則として,相続人全員の同意がなければ預金の払い戻しを行わないという「全員払い」の取扱いをしてきました。もっとも,金融機関としても,法定相続分の預金について払い戻しに応じざるを得ない場合もあり,善意無過失の準占有者弁済(民法478条)として免責されるか否かの判断を迫られるという不安定な立場にあったと言えます。また,金融機関を被告として,預金払戻請求訴訟を提起されるケースもあったようです。
 以上のように,これまでの判例理論と実務との間には大きな乖離があったのです。
2 本決定の意義
 そのような状況の中で,最高裁は,預貯金債権は「相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく,遺産分割の対象となる」という決定をしたのです。
 つまり,預貯金債権は,相続人の合意の有無に拘らず,遺産分割協議の対象となりますので,これまでよりも柔軟で公平な分割方法が可能となると考えられます。
 例えば,被相続人が相続人の一部のみに遺言で不動産を相続させている場合や,相続人の一部に特別受益や寄与分がある場合など,預貯金債権を原資とする代償金を用いて,柔軟かつ公平な分割ができるということです。
3 実務への影響と残った問題
 今回の判例変更により,判例理論と実務との乖離はなくなりました。これからは,全ての金融機関が,遺産分割協議が成立するまでは,相続人からの相続分に応じた預金の払戻請求には応じないという取扱いとなると思われます。
 しかし,問題も多く残っています。
 例えば,遺産が預貯金だけの場合で,相続人間に争いがなければ,これまでは各相続人が金融機関から払戻しを受ければ,それで遺産相続の手続きは済んでいましたが,これからは,遺産分割協議書を作成して金融機関に提示しなければならないのではないでしょうか。弁護士に依頼して,遺産分割協議書を作成してもらう必要があるかもしれません。
 また,例えば,相続税の納付期限である相続を知った時から10か月という期間内に,相続税を納付するための原資がない場合はどうなるのでしょうか。取り敢えず,相続人全員で預金の一部払い戻しを受け,相続税を納付した上で,遺産分割協議を行うといった方法を取る必要があるかもしれません。相続人全員の同意が得られない場合には,法的措置として「仮分割の仮処分」(本決定補足意見参照)を行うことも考えられるところです。
 さらに,金融機関としては,相続分に従った預金の払戻しに応じれば免責されるといった特約を設けることもあり得ます。
 いずれにしても,被相続人としては,残される相続人のために,相続と相続税の問題に対し,生前から方策を講じておく必要があると思います。

以上

注:本稿に記載されている法律的見解は,あくまでも当職の私見です。


H29.1.13 弁護士 今堀 茂
共同企業体(JV)を請負人とする土木建築工事請負契約における約款の解釈に関する最高裁判例のご紹介(最高裁判所平成26年12月19日判決)

共同企業体(JV)を請負人とする土木建築工事請負契約における約款の解釈に関する最高裁判例のご紹介(最高裁判所平成26年12月19日判決)

平成29年1月13日
弁護士 一級建築士 一級建築施工管理技士
 今 堀   茂

【はじめに】
 今回は,JVを請負人とする土木建築工事の請負契約における約款の解釈に関する最高裁判例(平成26年12月19日判決)のご紹介です。
 共同企業体(Joint Venture :JV)とは,主に土木建築業界において用いられる手法で,一つの工事を複数の企業が共同で受注し施工するための組織です。例えば,大きな工事において,ある企業に不得意分野があり受注困難な場合でも,その分野が得意な他の企業とJVを構成することで,一つの工事を総合的に受注でき,かつ,円滑に施工を行うことができます。なお,共同企業体には法人格はなく,民法上の組合であると解されています。
 本判例は,地方公共団体と共同企業体との間の工事請負契約における約款の合理的意思解釈の方法として,契約条項に複数の合理的な解釈があり得る場合には,その契約条項の作成者にその不明確のリスクを負わせるべきという「作成者不利の原則」を明確に用いた興味深いものですので,ここにご紹介致します。

【事案の概要】
 地方公共団体であるXが,ゼネコンであるA及びYが結成した共同企業体との間で土木工事の請負契約(以下,「本件契約」という。)を締結していたところ,公正取引委員会は,本件契約を含む工事に関して談合が行われたとして,A及びYを含む多数のゼネコンに対して,排除措置命令等を行った。この排除措置命令等は,Aについては確定したが,Yについては,審判を請求したため,確定しなかった。
 また,本件契約の契約書においては,注文者Xは「甲」,請負人である共同企業体は「乙」と表記され,添付されていた工事請負契約約款には,乙が共同企業体である場合には,その構成員は共同連帯して契約を履行しなければならないとの条項や,乙が本件契約の当事者となる目的でした独占禁止法違反の行為に関し,公正取引委員会が排除措置命令等を行い,これが確定した場合,乙は請負金額の10分の2相当額の賠償金を支払わなければならないとの条項(以下,「本件賠償金条項」という。)が存在した。
 以上の事実を前提に,Xが,A及びYに対し,請負代金約3億0758万円の10分の2相当額である賠償金約6152万円の支払いを求めたところ,Aはその内金923万円を支払ったのに対し,Yは支払わなかった。そのため,Xは,Yに対し,賠償金の残額である金約5229万円及びこれに対する遅延損害金の支払いを求めて訴えを提起したものである。
 本件訴訟において,Yは,本件賠償金条項は,請負人が共同企業体である場合には,その構成員の全てについて排除措置命令等が確定したときに賠償金支払義務が発生するものであって,Yに対する排除措置命令等は確定していない以上,賠償金支払義務は発生していないと主張して争ったが,第一審,控訴審共に,Xの請求が認容されたため,Yはこれを不服として上告受理の申立てを行った。

【判決要旨】
 破棄自判(請求棄却)。
 「本件賠償金条項における賠償金支払義務は,飽くまでも「乙」に対する排除措置命令等の確定を条件とするものであり,ここにいう「乙」とは,本件約款の文理上は請負人を指すものにすぎない。もっとも,本件賠償金条項は,請負人が共同企業体の場合には,共同企業体だけでなく,その構成員について排除措置命令等が確定したときにも賠償金支払義務を生じさせる趣旨であると解するのが相当であるところ,本件契約において,上記「乙」が「A又はY」を意味するのか,それとも「A及びY」を意味するのかは,文言上,一義的に明らかというわけではない。
 そして,Xは,共同企業体の構成員のうちいずれかの者についてのみ排除措置命令等が確定した場合に,不正行為に関与せずに排除措置命令等を受けていない構成員や,排除措置命令等を受けたが不服申立て手続をとって係争中の構成員にまで賠償金の支払義務を負わせようというのであれば,少なくとも,上記「乙」の後に例えば「(共同企業体にあっては,その構成員のいずれかの者をも含む。)」などと記載するなどの工夫が必要であり,このような記載のないままに,上記「乙」が共同企業体の構成員のいずれかの者をも含むと解し,結果的に,排除措置命令等が確定していない構成員についてまで,請負金額の10分の2相当額もの賠償金の支払義務を確定的に負わせ,かつ,年8.25%の割合による遅延損害金の支払義務も負わせるというのは,上記構成員に不測の不利益を被らせることにもなる。
 したがって,本件賠償金条項において排除措置命令等が確定したことを要する「乙」とは,本件においては,本件共同企業体又は「A及びY」をいうものとする点で合意が成立していると解するのが相当である。このように解しても,後にYに対する排除措置命令等が確定すれば,Xとしては改めてYに対して賠償金の支払を求めることができるから,本件賠償金条項の目的が不当に害されることにもならない。」

【解説】
1 賠償金条項
  本件事案では,公共工事の請負契約における賠償金条項の解釈が争われました。入札者の談合によって公共工事の契約が締結された場合,注文者である国や公共団体は,高い請負金額での契約を余儀なくされますので,談合がなかった場合との差額分の損害を被ります。賠償金条項は,かかる不正な談合を抑止する必要性と損害額立証の困難を救済する必要性から,公共工事の請負契約約款に加えられているものです。
  本件賠償金条項は,公正取引委員会からの請負人に対する排除措置命令等が確定した場合に賠償金支払義務が発生するというものですが,本件事案では,請負人が共同企業体の場合に,その構成員の一部にのみ排除措置命令等が確定すれば,共同企業体に賠償金支払義務が発生するのかという点が争われました。
  この点について,最高裁は,「作成者不利の原則」を用い,構成員の一部であるAにのみ排除措置命令等が確定しても,共同企業体である「乙」(当然Yも)は,賠償金支払義務は発生しないと判断したのです。
2 作成者不利の原則
  「作成者不利の原則」とは,契約条項に複数の合理的な解釈があり得る場合に,その契約条項の作成者にその不明確のリスクを負わせるべきというものですが,解釈基準として判例上確立してはいませんでした。
  しかし,最高裁は,本判決において,①定型約款条項の意味が,文言上,一義的に明らかではなく複数の合理的解釈があり得る場合に,②その内の一つの解釈を採用すると,約款作成者ではない相手方に不測の不利益を被らせることになるときは,③定款作成者は,かかる不明確さを生じないよう条項を工夫して作成する必要があり,約款作成者がこの工夫を怠っている場合には,その不明確のリスクを約款作成者に負担させるべきであると,明確に「作成者不利の原則」を用いて判断したのです。
3 最後に
  「作成者不利の原則」を用いた最高裁の上記判断基準は,第一審,控訴審共に,Xの請求が認容されていたことを考えれば,実務への影響は極めて大きいと言えます。例えば,保険契約の定型約款の解釈基準としては,そのまま適用できると考えられるところです。
もっとも,本判例の射程がどこまで及ぶのかは今後の判決の傾向に委ねられるところですが,定型約款ではない場合にはどうなるのか,消費者契約法への導入があり得るのかなど,残された課題は多いように思われます。

以上

注:本稿に記載されている法律的見解は,あくまでも当職の私見です。

H28.12.21 弁護士 秋重 実
「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」と倫理審査委員会について

「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」と倫理審査委員会について

平成28年12月21日
弁護士 秋 重  実

1 「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」とは
 「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」とは,人を対象とする医学系研究に携わるすべての関係者が遵守すべき事項を定め,それにより人間の尊厳及び人権が守られ,研究の適正な推進が図られることを目的とするものです。
 研究者等の責務,研究計画,倫理審査委員会,インフォームド・コンセント等,個人情報,重篤な有害事象への対応,利益相反に対する対応や情報等の保管のための規定の整備,モニタリングなどの研究の信頼性確保その他により構成されています。その具体的な内容についてはネット上で見ることができます(http://www.lifescience.mext.go.jp/files/pdf/n1443_01.pdf)。
 
人を対象とする医学系研究に関しては,従前,「疫学研究に関する倫理指針」(平成19年文部科学省・厚生労働省告示第1号)及び「臨床研究に関する倫理指針」(平成20年厚生労働省告示第415号)により,その適正な実施が図られてきました。
 しかしながら,近年の研究の多様化に伴い,両指針の適用関係が不明確になってきたことや,ノバルティス社のディオバン事件といった,研究をめぐる不正事案が発生したこと等を踏まえて見直しが行われ,「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」(平成26年文部科学省・厚生労働省告示第3号)として統合され,平成27年4月1日より施行されました。

2 倫理審査委員会とは
 倫理審査委員会とは,研究の実施又は継続の適否その他研究に関し必要な事項について,倫理的及科学的な観点から調査審議するために設置された合議制の機関です。
 この新しい指針において,倫理審査委員会についてはその機能強化と審査の透明性確保に関する規定が設けられ,委員構成,成立要件,教育・研修の規定,倫理審査委員会の情報公開に関する規定の充実化が図られています。
 
倫理審査委員会の委員構成については,具体的には,

 

医学・医療の専門家等,自然科学の有識者

倫理学・法律学の専門家等,人文・社会科学の有識者

研究対象者の観点も含めて一般の立場から意見を述べることのできる者

倫理審査委員会の設置者の所属機関に所属しない者(外部委員)

男女両性

5名以上


 という要件が課されています。特に,②④の要件を満たすものとしては,外部の弁護士が最適であり,委員に外部の弁護士を入れることによって,当該研究の公正性,信頼性が高まるものと言えます。
 当事務所では,ICRwebの倫理審査委員会コースの研修を受講し,また,実際に倫理審査委員の経験もありますので,倫理審査に関するご相談に対応することが可能です。

以上

H28.11.01 弁護士 冨山 はな
【交通事故で被害に遭った場合の弁護士委任の有無による損害賠償額の違いについて-人身事故の場合の「弁護士基準」-】

【交通事故で被害に遭った場合の弁護士委任の有無による損害賠償額の違いについて-人身事故の場合の「弁護士基準」-】

平成28年11月1日
弁護士 冨 山 は な

1 はじめに(自賠責保険と支払基準)
 自動車を所有する場合,自動車損害賠償責任保険や,農協共済や全労済などが行っている自動車損害賠償責任共済(以下,併せて「自賠責保険」といいます。)に加入することが義務づけられています。
 もっとも,この自賠責保険に基づいて支払われる保険金額には上限があり,例えば,被害者が受け取ることのできる保険金は,死亡の場合は3000万円,傷害については120万円,後遺障害が残存した場合は14級から1級まで等級に応じて75万円から4000万円までと決められています。
 しかし,被害者の年齢・収入・入通院期間,ケガや後遺障害の程度によっては,損害額が自賠責保険の上限を超えることは決して珍しいことではなく,その様な場合に備えて,自動車の所有者が損保会社と任意に契約をするのが自動車保険(以下,「任意保険」といいます。)です。
 よって,交通事故に遭った被害者は,多くの場合,加害者の契約している任意保険の損保会社を直接の相手方として,損害賠償の支払いを求めていくこととなります。

2 任意保険と支払基準について
 任意保険にも,損保会社ごとに支払基準があるようですが,支払基準は公表されていません。交通事故に遭い受傷した場合,加害者が契約している損保会社の支払基準に基づいて賠償金額の提示があるのが一般的です。
 しかし実は,交通事故による損害賠償には損保会社の支払基準の他に弁護士基準というものがあります。そして,この弁護士基準は損保会社の支払基準よりも高額となっています。
弁護士基準は永年にわたり蓄積された裁判例や損害賠償実務により形成されたものですが,弁護士はこの基準に基づいて被害者の代理人として損保会社と損害賠償額の増額について交渉していきます。
 そして,ほとんどのケース(ほぼ100%)において損保会社が当初提示した賠償額よりも増額した内容で示談することができます。

3 実際の事例
 ここでは,過去数年の間に当事務所で扱った交通事故(人身事故のみ)の示談交渉において,弁護士が介入したことで賠償額が増額した事例をいくつか紹介したいと思います(増額しなかった事例は皆無です。)。

 増額率にばらつきがあるのは,損保会社から賠償額の提示があってから受任した事案と,受任後に損保会社から損害額を提示された事案があるからです。増額率の高い事案が前者で,低い事案が後者です。いずれにしても,弁護士が介入したことで賠償額が増額したことがお分かり頂けるのではないでしょうか。
 弁護士が取り扱う事件の内容は,後遺障害の有無や過失の程度,受任時に既に損保会社から賠償額の提示がされている事案,受任後弁護士より損保会社に賠償額の提示をする事案などさまざまですので,一概に弁護士が介入すると賠償額はこれくらい増額しますよとはいえませんが,少なくとも弁護士が介入すると賠償額が増額することは間違いありません。

4 弁護士報酬について
 そして,気になるのが弁護士報酬だと思います。「弁護士に頼んで賠償額は増額したけれど,弁護士報酬を支払ったら,結局はプラスにならなかった。」という噂を聞いたことがある方もいるかもしれません。しかし,そのようなことは,よほど少額の事案でなければ,まずありません。
 もし不幸にも交通事故に遭って被害者になられたら,ご自身で損保会社と交渉されずに,躊躇なく弁護士にご相談されることをお勧めいたします。確実に賠償額は増額するものと思います。
 なお,近時では,任意保険の弁護士費用特約を利用される方が増えています。相談だけしたい場合,過失割合に納得がいかない場合,賠償額が少額の場合,弁護士費用の負担が気になる場合など,どんな些細な事案でもご自身の負担なし(ほとんどの事例が,特約の上限300万円の範囲に納まります。)に利用できますので,こちらに加入されることもお勧めです。

H28.4.20 弁護士 今堀 茂
民泊・シェアハウス等の対策としてのマンション管理規約変更案

民泊・シェアハウス等の対策としてのマンション管理規約変更案

平成28年4月20日
弁護士 今 堀   茂

 最近良く耳にする民泊ですが,マンション内で民泊営業がなされると,不特定多数の外国人がマンションを出入りし,次のような問題が生じる可能性があります。シェアハウスであれば,パーティー等が頻繁に催され,騒音という面では,民泊よりも酷いことになると考えられます。

① 騒音
  宿泊施設の一部という認識しかありませんので,廊下やバルコニーで大きな声で会話等を行うおそれがあります。
② 共用部の損壊
  たばこの吸殻を廊下やバルコニーに捨てる等の行為が想定されます。
③ 衛生面
  ゴミを共用部へ捨てる。ゴミ出しのルールを知らない。感染症等
④ 治安の悪化
  メールボックスを介した鍵の受渡しにより,防犯面で不安が生じます。
  窃盗,薬物,売春,テロ等の不安もあります。
⑤ クレームを言っても言葉が通じない。
⑥ 有事の際,対処不能
  住戸設備の使用方法を知らない。管理会社の連絡先を知らない。宿泊者の情報がないため,管理会社からの連絡も不能。
⑦ 当該マンション及び周辺地域の資産価値の低下

 しかし,未だ民泊が実際に行われていない段階の分譲マンションであれば,管理規約を変更することで予め対策を講じられます(既に民泊が行われている場合には,当該区分所有者への「特別の影響」(区分所有法31条1項後段)を考慮する必要があります。)。
 そこで,民泊やシェアハウス対策としてのマンション管理規約の変更案を,後記の通り作成してみました。民泊の営業者やシェアハウスの方は,「私が貸している人が勝手に営業しているだけだ。」「お金はもらっていないので営業ではない。」「シェアハウスはあくまでも住宅だ。」等,様々な主張をしてくる可能性があります。この変更案は,複数のマンションの変更案を基に,様々な使用形態や主張を想定し,私が足りないと思う部分を変更・補足したものです。
 マンション管理組合やマンション管理会社のご参考にして頂ければ幸いです。

標準管理規約
変 更 案(下線は変更部分)※
 (専有部分の用途)
第12条 区分所有者は,その専有部分を専ら住宅として使用するものとし,他の用途に供してはならない。
(専有部分の用途)
第12条 区分所有者及び占有者は,その専有部分を専ら住宅として使用するものとし,他の用途に一切供してはならない。
 次の各号に定める用途は,前項記載の専ら住宅として使用するものにはあたらないものとする。
  シェアハウス(賃貸借契約・使用貸借契約等により1住戸に親族とは別の複数世帯が居住する使用形態を言い,企業・団体・学校等の寮,寄宿舎としての使用を含む)
  短期賃貸借住宅(いわゆるウィークリーマンション,マンスリーマンション等,不特定の者と短期間の賃貸借契約を繰り返すもの)
  短期使用貸借住宅(不特定の者と短期間の使用貸借契約を繰り返すもの)
  グループホーム(社会福祉法人や介護サービス事業者等の支援を受けながら,認知症高齢者若しくは障害者等が集団で生活するもの)
  休憩・宿泊等施設(有料・無料を問わず,専有部分の全部又は一部を休憩所又は宿泊等の施設として特定・不特定を問わず多数の者に使用させるもの)
 前項各号に定める用途の使用者を募集するための広告及びインターネットを介したウェブサイト等への登録,掲出等の行為を一切してはならない。
 専有部分の用途について,第2項に抵触する疑いがあるときは,理事長又はその指定を受けた者は,必要な範囲において専有部分に立ち入り,調査を行うことができる。この場合において,当該専有部分の区分所有者及び占有者は,正当な理由がなければこれを拒否してはならない。
 第2項の規定にかかわらず,理事長が特段の事由があると認めた場合には,理事会の決議により一定期間を定めて当該用途による使用を許可することができる。
(専有部分の貸与)
第19条 区分所有者は,その専有部分を第三者に貸与する場合には,この規約及び使用細則に定める事項をその第三者に遵守させなければならない。
 

 

 

(専有部分の貸与)
第19条 区分所有者及び占有者は,その専有部分を第三者に貸与する場合には,次の各号に掲げる事項を遵守するとともに,その第三者にこの規約及び使用細則に定める事項を遵守させなければならない。
  第12条第2項第一号の使用等を目的として,1住戸について複数世帯(親族を除く)が入居する賃貸借契約等を締結しないこと。
  貸与の相手方に対して,第12条第2項各号に掲げる用途に使用させないこと。
  貸与の相手方に対して,第12条第2項各号に掲げる用途での使用を目的とした転貸借契約を締結させないこと。
2 前項の場合において,区分所有者は,その貸与に係る契約にこの規約及び使用細則に定める事項を遵守する旨の条項を定めるとともに,契約の相手方にこの規約及び使用細則に定める事項を遵守する旨の誓約書を管理組合に提出させなければならない。
2 前項の場合において,区分所有者及び占有者は,その貸与に係る契約にこの規約及び使用細則に定める事項を遵守する旨の条項を定めるとともに,契約の相手方にこの規約及び使用細則に定める事項を遵守する旨の誓約書を管理組合に提出させなければならない。

※ 上記管理規約変更案の通りに変更すれば,必ず民泊等を防止できることを保証するものではありません。

H26.8.26 弁護士 秋重 実
従業員によるインターネットの私的利用

従業員によるインターネットの私的利用

平成26年8月26日
弁護士 秋 重  実

 従業員が会社のパソコンやスマートフォンを使用して,インターネットを私的に利用した場合,たとえば私用メールや業務と無関係のサイトの閲覧をした場合,どのような問題が生じるか,検討してみたいと思います。

1 従業員がこのような行為を行った場合に,会社は懲戒処分を科すことができるかどうかですが,まず,労働者には会社に対し,誠実労働義務,職務専念義務を負うとされています。
 たとえば,菅野和夫・労働法〔第10版〕(弘文堂・2012年)では,「労働者は,労働契約の最も基本的な義務として,使用者の指揮命令に服しつつ職務を誠実に遂行すべき義務を有し,したがって労働時間中は職務に専念し他の私的活動を差し控える義務を有している。」(724頁)とされています。そして,従業員のかかる行為は「職務懈怠」の一種として,懲戒事由にあたる場合があります。
 ただし,私的利用があったからといって直ちに懲戒処分が許されるわけではなく,「職務懈怠自体は単なる債務不履行であり,それが就業に関する規律に反したり,職場秩序を乱したと認められた場合に初めて懲戒事由となる」(菅野・495頁)とされています。
 また,労働者は会社に対して労務提供義務を負いますが,これに付随して,「企業秩序遵守義務」をも負うものと解されています(富士重工事件・最判昭52・12・13)。かかる観点から見た場合,インターネットの私的利用は,使用者の設備であるパソコン端末や通信回線を所定の目的以外の用途で使用し,使用者に通信料金や電気料金の負担等を生じさせるものであり,企業秩序遵守義務(企業設備の私的利用の禁止)に反するものといえます。
 この企業秩序遵守義務違反は,上記の職務専念義務違反と異なり,職務専念義務違反が問題とならない業務時間外に当該私的利用が行われた場合にも妥当します。

2 さて,ここで過去の裁判例を1つだけご紹介しますと,K工業技術専門学校事件(福岡高判平17・9・14)という事件があります。これは,解雇を有効とした数少ない裁判例です。
 事案の概要は,専門学校の教師Xが会社Yから貸与されたパソコンを利用して7つの出会い系サイト等に登録し,その掲示板にSMの相手を募集する書き込み2件を含む複数の書き込みを行うとともに,交際相手や出会い系サイトを通じて知り合った者らと膨大な件数のメールのやり取りを約5年間繰り返し(受信記録1650件余,送信記録1330件余,うち出会い系サイトでの受送信分も800件以上),その約半数程度が昼休みを除く勤務時間内であった,というものです。
 解雇には厳格なハードルを課す裁判所も,さすがにこの事例で解雇はやむを得ないものと判断しました。その他の裁判例では,ほとんどが解雇は無効とされています。もっとも,解雇に至らない戒告,減給といった処分であれば,事案にもよりますが,有効とされる場合があると思います。

3 会社としては,このような従業員に対する対応として,①インターネットの私的利用を使用規定,就業規則等によって禁止しておく,②従業員研修を実施する,苦情・相談処理体制を整えておく,③使用規定等において使用状況を監視,点検できることを明示し,これを実施する,といった対応が考えられます。
 ③については,こういった使用規定がないにも拘らずパソコンやスマートフォンを調査すると,プライバシー侵害の問題が生じるおそれがありますので,注意が必要です。

【参考文献】
・菅野和夫・労働法〔第10版〕(弘文堂・2012年)
・白石哲編著・労働関係訴訟の実務(商事法務・2012年)
・日本組織内弁護士協会監修・事例でわかる問題社員への対応アドバイス(新日本法規・2013年)

H25.4.3 弁護士 秋重 実
裁判員裁判について

裁判員裁判について

平成25年4月3日
弁護士 秋重 実


 平成16年5月21日「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」が成立し,平成21年5月21日から,裁判員制度が始まりました。
 私も現在までに裁判員裁判を3件経験しました。この制度に対しては賛否両論があり,私自身もいくつか思うところがありますが,今日は,一般的なお話をしたいと思います。

1 裁判員制度とは何か
 裁判員制度とは,刑事裁判に国民が裁判員として参加し,被告人が有罪か無罪か,仮に有罪だとしたらその刑の重さの判断を,裁判官とともに行う制度です。
 この制度によって国民が刑事裁判に参加し裁判というものを身近に感じることができ,さらに裁判員の意見が裁判に反映されることで,司法と国民の認識のズレを是正するといった役割を果たします。これにより,裁判全体に対する国民の理解が深まり,司法に対する国民の信頼が一層深まることが期待されています。

2 裁判員裁判の対象となる事件
 裁判員裁判の対象となる裁判は,①刑事裁判に限られ,また,②主に殺人や危険運転致死といった一定の重大事件に限られます。したがって,離婚や損害賠償請求のような民事,家事事件には適用がなく,冤罪が多いといわれる痴漢にも適用がありません。また,第一審(地方裁判所)のみとされていますので,控訴審では裁判員裁判は行われません。

3 裁判の流れ
 裁判員裁判の手続の流れについては,選出された6人の裁判員が,裁判官3人とともに,刑事事件の法廷に立ち会い,判決まで関与することになります。その際,裁判員は,事件の証拠書類の取調べをしたり,証人や被告人に質問することもできます。
 証拠を吟味した後,事実の認定を行い,被告人が有罪か無罪かを判断し,仮に有罪ならば刑の重さについて裁判官と共に議論し,決定することとなります。
 裁判中の,法的判断等についてはこれまで通り裁判官が行い,必要がある場合には裁判官から裁判員に対して充分な説明がなされるため,法律の知識がなくても大丈夫だといわれています。

4 裁判員裁判の問題点
 裁判員になることは法律上の義務とされており,辞退できる事由が限られ,拘束時間も長く,裁判員の方にとっては負担の重いものとなっています。罰則を伴う守秘義務も課せられています。
 また,弁護人にとっても,公判期日中は連日裁判所に詰めなければならず,他の業務はほとんど手に付かなくなりますので,裁判員裁判を引き受けるにはかなりの覚悟が必要です。

 裁判は公開の法廷で行われ,誰でも見ることができますので,ご興味のある方は,一度傍聴されることをお勧めします。

 なお,本稿につきましては,当事務所で研修を行った立命館大学のエクスターン生の方に手伝って頂きました。この場を借りて御礼申し上げます。また,早期の最終合格を祈念しております。

H25.3.7 弁護士 秋重 実
相続手続を円滑に進めるために ~遺言執行者のすすめ~

相続手続を円滑に進めるために ~遺言執行者のすすめ~

平成25年3月7日
弁護士 秋重 実


 今回は,相続手続を円滑に進めるための一つの方法として,「遺言執行者」について解説したいと思います。

1 遺言の執行とは?
 遺言書に書かれた内容は,誰かがそれを行動に移すことにより,初めて実現されます。そして,遺言書の内容を実現することを,「遺言の執行」といいます。
 たとえば,不動産を相続させる場合であれば,所有権移転登記手続を経て,その相続人に名義変更しなければなりませんし,その不動産に相続人以外の人が住んでいる場合には,その人に出て行ってもらわなければなりません。

2 遺言執行者とは?
 遺言の執行は,相続人自身で行うこともできます。
しかし,相続人がたくさんいて,相続財産もたくさんあるような場合に,それぞれの財産の処分ごとに相続人全員が関与することは非常に面倒です。
預金の解約といった手続ひとつをとっても,相続人全員で共同して行うことは容易ではありません。
 また,行方不明の相続人がいる場合には,その人のために財産管理人を家庭裁判所で選任してもらわなければ手続を進めることができません。
 そこで民法は,遺言書の内容をよりスムーズに実現できるように,「遺言執行者」という制度を設けているのです。
 遺言執行者は,相続人全員の代理人とみなされ,遺言の執行に必要な一切の行為をする権利・義務を有しています。
 遺言執行者がいれば,相続人全員で遺言執行のための手続を行う必要はありません。

3 遺言執行者には誰がなるのか?
 遺言執行者は,未成年者及び破産者を除き,誰でもなることができます。
しかし,財産調査等の手続が負担となる場合や,相続人間で争いがあるときには他の相続人から解任請求がなされることもありますので,弁護士等,利害関係のない第三者に依頼した方が良いでしょう。

4 遺言執行者の指定・選任
 遺言者は,遺言の中で遺言執行者を指定することができ,その指定を第三者に委託することもできます。
また,遺言執行者がいないときや死亡したときは,相続人等の利害関係人の請求によって,家庭裁判所がこれを選任します。
 そのため,遺言の中で子を認知する旨を記載した場合など,法律上遺言執行者が必要であるにもかかわらず,遺言者がその指定をしていなかった場合,相続人等が家庭裁判所に遺言執行者の選任を請求することになります。
 また,遺言執行者を指定していたにもかかわらず,その人が死亡してしまった場合には,やはり家庭裁判所に遺言執行者を選任してもらう必要があります。

5 遺言執行者の報酬
 遺言執行者の報酬は,遺言で定めることができます。
 遺言に定めがない場合には,遺言執行者と相続人との話合いにより決定されますが,話がまとまらない場合には,家庭裁判所に報酬額を定めてもらうための審判を申し立てることになります。
 したがって,後に相続人と遺言執行者との間で報酬についてもめることがないよう,相続財産の価格や執行のための業務内容などを考慮して,遺言で定めておく方が良いでしょう。
なお,当事務所では,遺言執行者をご依頼頂いた場合の報酬基準を設けております。

 遺言,相続に関するトラブルでお困りのことがあれば,当事務所までお気軽にご相談下さい。

H25.1.18 弁護士 秋重 実
売主の瑕疵担保責任とは ~購入した建物に欠陥があった場合の買主の保護~

売主の瑕疵担保責任とは ~購入した建物に欠陥があった場合の買主の保護~

平成25年1月18日
弁護士 秋重 実

1 民法
 「瑕疵担保責任」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。カヒではなく,カシと読みます。売買の目的物に隠れた瑕疵があったときに,売主が買主に対して負う責任のことです(民法570条)。
 民法上,売主に瑕疵担保責任を追及するためには,売買の目的物に「隠れた瑕疵」が存在することが要件とされています。ここで「隠れた」とは,瑕疵の存在を買主が知らず,かつ,知らないことについて過失もなかったことを意味します。
 「隠れた瑕疵」が存在すると,買主は売主に対し,①損害賠償を請求することができます。また,②瑕疵があるために契約の目的を達成することができないときは,契約を解除することもできます(民法570条,566条1項)。
 ただし,これら買主の権利は,買主が事実を知った時から1年以内に行使しなければ消滅するとされ(民法570条,566条3項),また,目的物の引渡時を起算点として10年間の消滅時効にかかるとされています(判例)。
2 住宅の品質確保の促進等に関する法律
 これら民法上の規定は,住宅の売買においては十分な保護とはいえないため,平成11年に,「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(品確法)が制定されました。
 同法では,新築住宅の売買契約において,売主は,「住宅の構造耐力上主要な部分等の隠れた瑕疵」について,引渡時から10年間の瑕疵担保責任を負わなければならないとされています。
 さらに,責任の内容として,民法の定める契約解除・損害賠償の責任に加えて,①瑕疵修補,②修補と共にする損害賠償,③修補に代わる損害賠償の責任も認められています(品確法95条1項)。
3 住宅瑕疵担保履行法
 もっとも,いくら売主の責任を加重しても,売主に資力がなければ絵に描いた餅となってしまいます。そこで,平成19年,「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律」(住宅瑕疵担保履行法)が成立しました。
 これは,住品法に基づく瑕疵担保責任の履行の実効性を確保するため,売主が宅建業者である場合に,①住宅販売瑕疵担保保証金の供託,②保険契約の締結のいずれかの措置を講じなければならないとすることによって,新築住宅の売主に資力の確保を義務付けています。
4 ローマ法
 最後におまけとして,紀元前3世紀頃,ローマ帝国時代の瑕疵担保責任についてご紹介しておきましょう。
 「市場で奴隷を売却する場合,売主は,以下の瑕疵を自発的にそしてまわりの人に聞こえるような大声で知らせなければならなかった。(a) 病気,(b) 身体的な瑕疵,(c) 奴隷に放浪癖があるとき,(d) 奴隷がすでに逃亡したことがあった(そしてもちろん再び捕えられた)とき,(e) 他人の所有物に損害を与え,主人がまだ損害を賠償していなかったときである。」,「奴隷がたとえば盗癖がある,酒のみである,またはさいころ賭博好きであるといった性格面での欠点をもっていたとしても,知らせる義務はなかった。」(ウルリッヒ・マンテ著,田中実・瀧澤栄治訳「ローマ法の歴史」ミネルヴァ書房76頁)。
 今から2000年以上も昔に,すでに瑕疵担保責任という概念があったことも驚きですが,その内容についても,奴隷制を背景とした極めて興味深いものとなっています。

H24.5.28 弁護士 今堀 茂
建物の瑕疵についての不法行為責任に関する裁判例のご紹介(福岡高等裁判所平成24年1月10日判決)

建物の瑕疵についての不法行為責任に関する裁判例のご紹介(福岡高等裁判所平成24年1月10日判決)

平成24年5月28日
弁護士 一級建築士 一級建築施工管理技士
 今 堀   茂


【はじめに】
 今回は,以前にご紹介させて戴きました「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」に関する最高裁平成23年7月21日判決の,第3次控訴審判決(福岡高等裁判所平成24年1月10日)をご紹介致します。
 福岡高裁は,「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」を一部のみ認め,請求額約3億5000万円に対して,その約1割にあたる約3800万円の損害賠償義務を認めていますが,原告とすれば,実質的には敗訴に近い内容であると思われます。

【事案の概要】
 事案としては,共同住宅・店舗として建築された9階建ての建物(以下,「本件建物」といいます。)を建築主から買い受けた原告が,本件建物にはひび割れや鉄筋の耐力低下等の瑕疵があると主張して,設計・工事監理者である一級建築士事務所と建築請負人である建設会社を被告として,不法行為に基づく損害賠償を請求した事件で,「別府マンション事件」と呼ばれているものです。

【判決概要】
 福岡高裁は,「建物に対する不法行為責任の成立について,…法規の基準をそのまま当てはめるのではなく,基本的な安全性の有無について実質的に検討するのが相当である。」,「瑕疵担保ではなく不法行為を理由とする請求であるから,瑕疵のほか,これを生じるに至った…故意過失についても立証が必要であり,過失については,損害の原因である瑕疵を回避するための具体的注意義務及びこれを怠ったことについて立証がなされる必要がある。」などと述べた上で,本件建物の多くの瑕疵の内,ほんの一部のみについて「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」に該当すると認定し,設計者や施工業者に過失があると判示しました。

【解説】
1 最高裁と福岡高裁の方向性の違い
  本判決は,2度目の差戻審のものですが,「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」に関して,最高裁と福岡高裁の間で,基本的な考え方の方向性が全く異なるのではないかと考えられます。つまり,最高裁は,設計者や建築業者の不法行為責任を広く認めようとする方向で,他方,福岡高裁は,その不法行為責任を限定しようとする方向であると思われます。
 この方向性の違いは,何に起因しているのでしょうか。
2 瑕疵担保責任との関係
  福岡高裁は,「瑕疵担保ではなく不法行為を理由とする請求であるから,瑕疵のほか,これを生じるに至った…故意過失についても立証が必要であり,過失については,損害の原因である瑕疵を回避するための具体的注意義務及びこれを怠ったことについて立証がなされる必要がある。」と述べ,現実に瑕疵が存在しているにも拘らず,ほとんどの瑕疵について,具体的注意義務違反の立証がなされていないから過失は認められないと判示しています。
  この判断の背景には,マンションのように転売されるものについては,本来は,売主と買主との間で瑕疵担保責任で処理されるべきであり,第三者である転得者から長期に亘って損害賠償請求できる不法行為責任は,限定的に適用されるべきであるとの考え方があるように思われます。
3 専門的知識の欠如
  また,あくまでも私見ですが,上記判断の背景には,もう一つの要素があるのではないかと私は思っています。
  つまり,裁判官の建築に関する専門的知識の欠如です。
  福岡高裁の論理では,原告側が,建物の瑕疵の存在とその瑕疵を回避するための具体的注意義務及びこれを怠ったことについて立証する必要があります。したがって,裁判官も,これら事実を認定しなければいけないことになりますが,建築に関する専門的知識を有していない裁判官に,これら認定が十分に可能でしょうか。
  例えば,本判決は,「B棟3階居室において,最大で幅1㎜を超えるひび割れが発生していることが認められるが,この原因については証拠からは不明である。鑑定書…では,…ひび割れ対策指針を守っていないとするが,その具体的内容については記載されていない。よって,これについて…不法行為により生じたものとは認められない。」としていますが,ひび割れがあり,ひび割れ対策指針の存在が示されれば,具体的注意義務違反を認定することは可能であると考えられます。
裁判官は,専門的知識がないので立証が十分なのか判断できず,結局,立証不十分と認定してしまっているのではないかと思われる部分が,本判決には他にもいくつもあります。
4 証明責任の転換
  さらに,原則論から言えば,過失の証明責任は不法行為を主張する側にあります。しかし,建物の瑕疵の場合,これもあくまでも私見ですが,瑕疵が存在すれば,事実上過失が推定され,証明責任が事実上転換されると考えるべきです。
  建物の瑕疵には,複数の原因が通常考えられます。例えば,コンクリートのひび割れには,補強鉄筋忘れ,目地忘れ,かぶり厚の不適正,単位水量の多さ,支保工の早期撤去,コールドジョイント等,複数の原因が考えられます。実際,真の原因は,コンクリートを破壊しなければ分からないことも多いでしょう。
  しかし,建物に現実に瑕疵がある以上,そこに何らかの過失が存在していることは,通常は,明白に分かります。
  このように考えると,過失の証明責任については,多くの場合建築の素人である建物所有者よりも,建築のプロである設計者や施工業者に負わせるべきでものであるとの価値判断も合理性を有すると考えます。
  この点からも,本判決は,非常に問題のある判決なのではないかと言わざるを得ません。
5 最後に
  本判決は,以上の他にも,高さが1.1m以上必要な手摺りについて,71㎝でも「危険性があるとは認め難い」と認定するなど,首を傾げたくなるような判断をしています。
  正確な情報は持っていませんが,原告は,本判決を不服として,さらに上告したようですので,次の最高裁の判決を見守りたいと思います。

注:本稿に記載されている法律的見解は,あくまでも私見です。

H24.4.20 弁護士 秋重 実
マンション滞納管理費の消滅時効期間

マンション滞納管理費の消滅時効期間

平成24年4月20日
弁護士 秋 重  実

 今回は,身近な問題であるマンション管理費について取り上げたいと思います。
1 管理費とは
 マンション管理費について,区分所有法19条は,「各共有者は,規約に別段の定めがない限りその持分に応じて,共用部分の負担に任じ,共用部分から生ずる利益を収取する。」と定めています。
 管理費の内容としては,管理を管理会社に委託している場合の管理委託料,共用部分の光熱費,エレベーターの保守点検料,各種修繕費などがあります。ただし,このうち修繕積立金については,多くの管理組合において,長期修繕計画に伴う大規模修繕において一時的な徴収を避けるために,通常の管理費とは別の費目によって徴収しているようです。
2 滞納管理費はいつまで請求できるか
 ところで,この滞納管理費はいつまで請求することができるのか,その消滅時効期間が問題となります。民法上,債権の消滅時効は原則として10年と定められていますが(民法167条),例外的に,5年,3年,2年,1年の短期消滅時効が設けられています(同168条以下)。
 滞納管理費の消滅時効期間については,原則通り10年と解するのか,定期給付債権として5年と解するのかで争いがありました。民法169条は,「年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権は,5年間行使しないときは,消滅する。」と定めています。マンション管理費は毎月一定期日までに一定額を支払うように定められているのが通常ですので,これが,民法169条にいう定期給付債権にあたるのではないかが問題となっていたのです。
 この点につき,下級審の裁判所では,10年説をとる判決もありましたが,最高裁判所は,民法169条を適用し,5年説を採用しました(草加西町マンション事件・最高裁判決平成16年4月23日・判時1861号P38)。
3 滞納問題の対策
 管理費滞納という問題は,どのマンションでも起こり得るものです。5年という期間は長いようですが,意外とすぐに経過してしまいます。そのため,個々の弁済期から5年が過ぎる前に,支払督促,訴訟提起といった法的措置を執る必要があります。
 管理費の滞納があると,マンション管理に支障をきたし,また組合員間の不公平感を助長することもあります。したがって,不誠実な管理費滞納者が容易に管理費を免れる結果とならないよう,適切かつ厳重な管理体制を構築することが必要です。また,どのような手段,対策を執るかについては専門的な判断も必要ですので,管理費滞納が発生したら,早めに弁護士やマンション管理士といった専門家にご相談されることをお勧めします。

 マンションに関するトラブルでお困りの方,お気軽にご相談下さい。

H24.3.21 弁護士 今堀 茂
請負契約の瑕疵担保責任における「瑕疵」に関する重要判例のご紹介

請負契約の瑕疵担保責任における「瑕疵」に関する重要判例のご紹介(最高裁平成15年10月10日判決)

平成24年3月21日
弁護士 一級建築士 一級建築施工管理技士
 今 堀   茂

【はじめに】
 前回は,建物の瑕疵についての不法行為責任に関する判例をご紹介させて戴きましたが,今回は,請負契約の瑕疵担保責任における「瑕疵」に関する判例です。
 本判決は,いわば注文主の「こだわり」を約定としていた場合には,その約定に反する仕事には,「瑕疵」があると判示したものです。
 注文建築の契約及び工事を行う際には,知っておいた方が良い判例であると考えられますので,ここに紹介致します。

【事案の概要】
 事案としては,被告(上告人)から建物の新築工事を請け負い,その建築をした建設業者である原告(被上告人)が,被告に対し,請負残代金の支払いを請求した事件です。被告は,建物の瑕疵修補に代わる損害賠償請求権等と請負残代金債権との対当額での相殺を主張していました。
 本件建物は,神戸市の阪神・淡路大震災で倒壊した建物の跡地に建てられた,学生向けのマンションなのですが,被告は,同震災で,多数の方が建物の下敷きになるなどして死亡した直後であったことから,建物の安全性には非常に神経質になっており,本件建物の耐震性を高めるために,一部の柱を当初の設計内容より太い鉄骨を使用するよう求め,原告もこれを承諾していました。ところが,原告は,この約定に反して,細い鉄骨を使用して本件建物を建築してしまったのです。 
紹介致します本判決は,この事件の上告審のものです。

【判決要旨】
 破棄差戻し。
 本件請負契約においては,上告人及び被上告人間で,本件建物の耐震性を高め,耐震性の面でより安全性の高い建物にするため,南棟の主柱につき断面の寸法300mm×300mmの鉄骨を使用することが,特に約定され,これが契約の重要な内容になっていたものというべきである。そうすると,この約定に違反して,同250mm×250mmの鉄骨を使用して施工された南棟の主柱の工事には,瑕疵があるものというべきである。

【解説】
1 請負契約の瑕疵担保責任に関する一般論
  請負人の瑕疵担保責任は,「仕事の目的物に瑕疵あるとき」(民法634条1項本文)に生じるところ,「仕事の目的物に瑕疵」があるとは,完成された仕事が契約で定めた内容どおりでなく,使用価値または交換価値を減少させる欠点があるか,当事者があらかじめ定めた性質を欠くなど不完全な点があることとされており,これが通説です。
2 建物の請負契約に関する特徴
  そうすると,契約当事者間であらかじめ了解されていた範囲内で,現場の状況に応じて若干の変更があった場合は別にして,建物の設計図と異なった施工が行われた場合等,当事者間であらかじめ定められた内容に反する工事が行われた場合には,「瑕疵」があるということになります。
  そして,ここで一つの疑問が生じます。建物の場合,設計図のみからでは工事内容の詳細については不明な部分が多いため,建築基準法上の基準への適合の有無が,「瑕疵」の有無の判断基準とされることがあり,同基準に適合さえしていれば,「瑕疵」は存しないことになるのではないかという疑問です。
  しかし,これは,請負契約当事者間の合理的意思解釈として,建物の安全性等に関しては,少なくとも建築基準法上の基準に適合する建物を建築することが契約の内容になっていたと解されるということであって,当事者が,同基準以上の仕様にすることを合意していた場合には,その約定に反する建物は,たとえ同基準を満たすとしても,「瑕疵」があるということになると考えられます。つまり,建築基準法は,あくまで最低ラインであって,同基準以上の約定がある場合には,その約定が優先されるということです。
3 結論
  本件で問題となった柱は,断面の寸法300mm×300mmの鉄骨を使用することが,特に約定され,これが契約の重要な内容になっていたものであり,また,この約定に違反して,同250mm×250mmの鉄骨を使用して施工したことは,契約当事者間であらかじめ了解されていた範囲内の変更とは言えないので,前記通説の見解に照らせば,本件請負工事には,瑕疵担保責任上の「瑕疵」があると言わざるを得ません。
本判決は,最高裁が,請負契約の瑕疵担保責任上の「瑕疵」について,前記通説の見解に立っていることを示したものと言えるでしょう。
  建築基準法上の基準に適合しているからといって,どんな災害に対しても絶対に安全であるとは決して言えないのですから,安全性に関する(安全性に限りませんが)「こだわり」を約定しておけば,その「こだわり」が重要であれば保護され,たとえ建築のプロの判断に基づく工事であったとしても,その約定に反すれば,請負人は瑕疵担保責任を負うことになるということです。
  注文建築の際には,注文主は,重要であると考える「こだわり」を契約書の特約条項に記載し,一方,請負人は,注文主の「こだわり」を尊重して,勝手な判断を避けるべきでしょう。

注:本稿に記載されている法律的見解は,あくまでも私見です。

H24.3.1 弁護士 秋重 実
ドラマ「運命の人」と西山記者事件

ドラマ「運命の人」と西山記者事件

平成24年3月1日
弁護士 秋 重  実


 今回は,現在TBS系列で放送中のドラマ「運命の人」を取り上げたいと思います。このドラマは,登場人物のモデルとなった西山太吉氏や渡邉恒雄氏がドラマに対する批判を展開する等,いろいろな意味で話題となっていますが,憲法的な視点からも重要な争点を含む事件です。
 ドラマの下敷きとなっている「西山記者事件」(あるいは,「沖縄密約電文事件」,「外務省秘密電文事件」等の名で知られています。)は,ごく簡単に言うと,昭和46年(1971年)に調印された沖縄返還協定に関する外務省の極秘電文を,毎日新聞の記者であった西山記者が外務省女性事務官から入手し,当時社会党議員であった横路孝弘氏(現衆議院議長)に流したため,女性事務官は国家公務員法100条1項違反,西山記者は同111条(秘密漏示そそのかし罪)に問われた事件です。
 なお,国家公務員法100条1項は,公務員が「職務上知ることのできた秘密」を漏示することを禁じ,同法111条は漏示行為の「そそのかし」行為を処罰対象としています。この事件では,憲法との関係では,憲法21条が保障する表現の自由の一内容とされる報道の自由との関連で,取材の自由とその限界が問題となったものです。つまり,「そそのかし」罪の取材行為への適用の可否が問題となったのです。
 第一審判決(東京地裁昭和49年1月31日)は,「そそのかし」に当たる取材行為も例外的に違法性が阻却される場合があるとして,具体的に利益衡量を行い,西山記者を無罪としました。他方,第二審判決(東京高裁昭和51年7月20日)は,「そそのかし」罪の厳格な合憲限定解釈を行ったうえで,有罪としました。
 ところが最高裁(昭和53年5月31日)は,そのいずれとも異なるアプローチをとり,西山記者を有罪としたのです。すなわち,取材が真に報道の目的であり,手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会通念上是認されるものであれば,正当な業務行為と言えるが,取材対象者と肉体関係をもつなど,人格の尊厳を著しく蹂躙した取材行為は,法秩序全体の精神に照らし社会通念上,到底是認することのできない不相当なものであり,違法である,としたのです。
 他方,女性事務官の方は,早々にかつ全面的に罪を認め,ほとんど争うこともなかったため,第一審において有罪判決を受け(懲役6カ月執行猶予1年),控訴することなく刑が確定しています。また,「ひそかに情を通じ」という文言で話題となった起訴状を書いたのは,後に参議院議員となった故佐藤道夫氏です(事件当時は東京地検特捜部検事)。この方は,多数の著書があるほか,現役の検事長時代に新聞紙上で検察批判を行ったことでも有名です。
 なお,近時,事件発生から40年近く経ち,政権交代もあった中で,密約の存在とその経緯が明らかになり,再度話題となりました。

H24.2.24 弁護士 今堀 茂
建物の瑕疵についての不法行為責任に関する重要判例のご紹介

建物の瑕疵についての不法行為責任に関する重要判例のご紹介(最高裁平成23年7月21日判決)


平成24年2月24日
弁護士 一級建築士 一級建築施工管理技士
今 堀  茂


【はじめに】
 昨年の平成23年7月21日,最高裁において,建物の瑕疵についての不法行為責任に関する重要な判決がありました。
 本判決は,「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」ある建物の設計・施工者の不法行為責任を,より認め易くなる方向性の判決です。
 今後の実務に及ぼす影響の大きい判例と考えられますので,ここに紹介致します。

【事案の概要】
 事案としては,共同住宅・店舗として建築された9階建ての建物(以下,「本件建物」といいます。)を建築主から買い受けた原告が,本件建物にはひび割れや鉄筋の耐力低下等の瑕疵があると主張して,設計・工事監理者である一級建築士事務所と建築請負人である建設会社を被告として,不法行為に基づく損害賠償を請求した事件です。
 紹介致します本判決は,この事件の第2次上告審のものです。

【判決要旨】
 破棄差戻し
 第1次上告審判決にいう「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは,居住者等の生命,身体又は財産を危険にさらすような瑕疵をいい,建物の瑕疵が,居住者等の生命,身体又は財産に対する現実的な危険をもたらしている場合に限らず,当該瑕疵の性質に鑑み,これを放置するといずれは居住者等の生命,身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合には,当該瑕疵は,建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当すると解するのが相当である。
 そして,建物の所有者は,自らが取得した建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵がある場合には,第1次上告審判決に言う特段の事情がない限り,設計・施工者等に対し,当該瑕疵の修補費用相当額の損害賠償を請求することができるものと解され,上記所有者が,当該建物を第三者に売却するなどして,その所有権を失った場合であっても,その際,修補費用相当額の填補を受けたなど特段の事情がない限り,一旦取得した損害賠償請求権を当然に失うものではない。

【第2次上告審に至る訴訟の経緯】
1 第一審判決(大分地裁平成15年2月24日判決)
  設計・施工者の不法行為責任を認めました。
2 第1次控訴審判決(福岡高裁平成16年12月16日判決)
  設計・施工者の不法行為責任を認めませんでした。
  建物の設計・工事監理者や建築請負人の不法行為責任については,瑕疵の内容・程度が重大で,建物の存在自体が社会的に危険な状態であるなど違法性が強度な場合に限って,これが認められるとする見解を採って,本件建物の瑕疵について,不法行為責任を問うような強度の違法性があるとはいえないと判示しました。
3 第1次上告審判決(最高裁平成19年7月6日判決)
  破棄差戻しとしました。
  建物の建築に携わる設計・施工者等は,建物の建築に当たり,契約関係にない居住者等に対する関係でも,当該建物に建物としての基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負い,設計・施工者等がこの義務を怠ったために建築された建物に上記安全性を損なう瑕疵があり,それにより居住者等の生命,身体又は財産が侵害された場合には,設計・施工者等は,不法行為の成立を主張する者が上記瑕疵の存在を知りながらこれを前提として当該建物を買い受けていたなど特段の事情がない限り,これによって生じた損害について不法行為による賠償責任を負うというべきであって,このことは居住者等が当該建物の建築主からその譲渡を受けた者であっても,異なるところはないと判示しました。
4 第2次控訴審判決(福岡高裁平成21年2月6日判決)
  設計・施工者の不法行為責任を認めませんでした。
  「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは,建物の瑕疵の中でも,居住者等の生命,身体又は財産に対する現実的な危険性を生じさせる瑕疵をいうものと解され,被上告人らの不法行為責任が発生するためには,原告が本件建物を売却した日までに上記瑕疵が存在していたことを必要とするとした上で,上記の日までに,本件建物の瑕疵により,居住者等の生命,身体又は財産に現実的な危険が生じていないことからすると,上記の日までに本件建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵が存在していたとは認められないと判断して,再び原告の請求を棄却すべきと判示しました。

【解説】
1 本判決の意義
  建物に瑕疵がある場合に,建物の所有者等は,瑕疵ある建物を設計・施工した者に対して,拡大損害が現実的に発生していない段階で,損害賠償を請求できるのかという問題に対して,第1次上告審判決は,「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」ある建物の設計・施工者の不法行為責任を認める判断をしました。
  しかし,この第1次上告審判決は,「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは,いかなる瑕疵を意味するのかという問題を残していました。
  本判決は,この第1次上告審判決において残された問題について,解答を示したものと言えます。
2 「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」の意味
  第1次上告審判決は,設計・施工者が負うべき不法行為責任における建物の瑕疵について,「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」として限定しました。
  しかし,「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」について,第2次控訴審判決のように,現実的危険性,即ち,拡大損害発生の危険が時間的に迫っていることを要求したのでは,それを放置した場合に拡大損害が発生する危険があるのにも拘らず,危険が現実化するまでは,建物の瑕疵の補修費用を請求できないことになってしまいます。
  そこで,本判決は,これを放置するといずれは居住者等の生命,身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合には,当該瑕疵は,「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」に該当するとの合理的な判断をしたものと考えられます。
  また,本判決は,建物の構造耐力に関わらない瑕疵であっても,これを放置した場合に,例えば,外壁が落下して通行人の上に落下したり,開口部,ベランダ,階段等の瑕疵により建物の利用者が転落したりするなどして人身被害につながる危険があるときや,漏水,有害物質の発生等により建物の利用者の健康や財産が損なわれる危険があるときには,建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当するが,建物の美観や居住者の居住環境の快適さを損なうにとどまる瑕疵は,これに該当しないとも判示しています。つまり,具体的に言うと,例えば,外壁のひび割れであっても,そのためにコンクリート内部の鉄筋が腐食し,外壁が剥落するようなものは,「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」に該当するということになると考えられます。
3 転売等に関する問題
  さらに,本判決は,建物の所有者は,自らが取得した建物に「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」がある場合には,第1次上告審判決に言う特段の事情がない限り,設計・施工者等に対し,(拡大損害だけでなく)当該瑕疵の修補費用相当額の損害賠償を請求することができるものと解され,上記所有者が,当該建物を第三者に売却するなどして,その所有権を失った場合であっても,その際,修補費用相当額の填補を受けたなど特段の事情がない限り,一旦取得した損害賠償請求権を当然に失うものではないとも判示しています。
  この判示からすると,「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」の存在を知らずに建物を取得した所有者は,不法行為に基づく損害賠償請求権を取得するが,当該所有者が,これを「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」の存在しない建物として転売した場合には,損害を填補されたと評価できるので,もはや不法行為に基づく損害賠償請求権を喪失し,転得者が不法行為に基づく損害賠償請求権を取得することになるが,逆に,当該建物を「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」の存在を前提に売却した場合には,転得者は,不法行為に基づく損害賠償請求権を取得しない一方で,前所有者は一旦取得した損害賠償請求権を喪失しないということになると考えられます。
  本件の原告は,競売によって本件建物の所有権を失っているのですが,その際,「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」の存在を前提として競売されていることは明らかですので,原告は,不法行為に基づく損害賠償請求権を喪失していないということになるのでしょう。
4 第3次控訴審判決
  その後,第3次控訴審の判決がありました。
  今のところ,あまり情報がなく,判決文も入手できていませんし,上告されたのかも分かりませんが,請求金額の1割程度を認めた,一部認容判決のようです。
  「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」は認めるが,注意義務違反の程度が低いと判断されたのかも知れません。
  第3次控訴審の判決文を入手できましたら,また,このホームページで紹介させて戴きたいと思います。

注:本稿に記載されている法律的見解は,あくまでも私見です。