下請業者に対する「指値」注文の問題点について
1. 「指値」注文の法律上の問題
親事業者、元請事業者が、下請事業者と取引を行う際に、下請事業者サイドから、参考価格や実績価格を出して欲しいとか、親事業者サイドで見積りを提示して欲しいといった要望を受けることがあるかと思います。これに応じて親事業者が参考価格、実績価格、見積り案などを提示することが、いわゆる「指値」にあたり、法律上問題とならないかが本日のテーマです。
2. 「指値」とは
「指値」とは、法律上明確に定義があるわけではありません。ただし、下請法について公正取引委員会・中小企業庁が作成した「下請取引適正化推進講習会テキスト」には「指値」の定義が記載されており、これによると、「指値」とは「親事業者が、下請事業者と十分協議することなく一方的に単価を指定すること」、とされています。そして、こうした「指値」による注文は、下請法で禁止する「買いたたき」に該当するおそれがある、とされています。下請代金は、本来の形としては、下請事業者から見積書を提出してもらった上で十分に話し合い、双方の納得のいく額とすることが重要です。
〇下請取引適正化推進講習会テキスト(令和6年11月)
3. 「買いたたき」とは
下請取引の公正化と下請事業者の利益保護を図るため、下請法(下請代金支払遅延等防止法)という法律が制定され、親事業者に対して4つの義務や11の禁止行為が定められています。そして同法第4条第1項第5号では、「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること。」はしてはならないとされ、いわゆる「買いたたき」が禁止されています。
また、下請事業者との取引が建設工事の場合には下請法ではなく建設業法が適用されますが、建設業法においても下請法と同様下請事業者の利益保護の条文があり、同条第19条の3において、「注文者は、自己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金の額とする請負契約を締結してはならない。」とされています。
4. 参考価格等の提示が「買いたたき」にあたるか
上記の「指値」の定義からすれば、親事業者から参考価格、実績価格等を提示したとしても、直ちに「指値」にあたり違法な「買いたたき」になるわけではありません。これらの提示を前提に下請事業者から見積りを提出してもらった上で、十分に話し合い、かつ「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額」、「その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額」でなければ、「買いたたき」にはあたりません。他方、親事業者から提示した参考価格、実績価格等が、親事業者と下請事業者の力関係により事実上の強制力を有し、かつその額が「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額」、「その注文した建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額」である場合には、「買いたたき」にあたる可能性があります。
したがって、親事業者と下請事業者との力関係によっては、たとえ下請事業者から参考価格や実績価格を出して欲しいといった要望を受けたとしても、これに応じることなく提示を控えた方が無難なケースもあるかと思います。また応じるとしても、ただ漫然と価格のみを伝えるのではなく、あくまで参考価格にすぎず下請事業者を拘束するものではない、下請事業者で自由に決めてもらって構わないことを十分に理解してもらう必要があります。
5. 最後に
「買いたたき」については、最近では出版大手と子会社が、雑誌の作成に関わるライターやカメラマンに対し、原稿料などの報酬を低く抑える「買いたたき」をして下請法に違反したとして、公正取引委員会から勧告が出ています(令和6年11月12日)。
〇「KADOKAWA」と子会社 下請業者「買いたたき」 公取委が勧告
また「買いたたき」については近時運用基準の改正があってその解釈が明確化され、さらには今年買いたたき規制の在り方について法改正も検討されており、引き続き注視していく必要があります。
〇下請法知っておきたい豆情報その11【買いたたきの解釈の明確化について】
〇企業取引研究会 報告書
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