景品表示法とステルスマーケティング規制について
1. ステルスマーケティングとは
「ステルスマーケティング」、いわゆるステマという言葉をすでにご存知の方も多いかと思います。「ステルス」とは、英語の辞書をひくと、内密の行動とか、レーダーで捕捉されにくいと言った意味ですが、「ステルスマーケティング」は、実際には広告であるにもかかわらず、広告であることを隠すことを意味します。
たとえば、パッと見は一般消費者の方やインフルエンサーが投稿したかのように見えるSNSの投稿や口コミが、実はその商品やサービスを提供している事業者が自ら投稿した広告だった、というものです。
ステルスマーケティングが社会的に認知されるきっかけとなったのは、平成24年(2012年)のペニオク詐欺事件といわれています。少し古い事件ですが、マスコミでも大きく報道され、関係した複数の芸能人が謝罪や芸能活動の自粛、引退に追い込まれたにとどまらず、オークションの運営者が詐欺罪で起訴され有罪判決を受けるという、大きな事件に発展しましたので、ご記憶の方も多いかと思います。
〇Wikipedia ペニーオークション詐欺事件
2. ステルスマーケティングの問題点
こうしたステルスマーケティングは、消費者が商品やサービスを自主的かつ合理的に選択することを阻害する可能性があり、放置すると消費者の利益を損ないかねず、大きな問題があります。
特にインターネットやSNSの利用の増加に伴い、投稿や口コミは消費者が商品やサービスを選ぶ判断材料として大きな役割を果たしています。レストランや美容室を選ぶ際に、口コミ欄を参照したことは皆様もご経験があるかと思います。こうした選択の際に、消費者が判断を誤らないためにも、第三者の感想なのか、それとも事業者の広告なのかはっきりと区別できることが重要です。
こうした区別ができないと、消費者が、実際には事業者の広告であるにもかかわらず、第三者の感想と誤認してしまい、欲しくもない商品を買ってしまったり不用なサービスの提供を受けてしまうことに繋がりかねません。
3. 景品表示法とステルスマーケティング規制
そのため、景品表示法(正式名称は「不当景品類及び不当表示防止法」)において、ステルスマーケティングが規制されることになりました。
景品表示法は、不当な表示や過大な景品類の提供による顧客の誘引を防止するため、一般消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為を禁止することにより、一般消費者の利益を保護することを目的とする法律です。
不当表示の例としては、たとえば、実際には近江牛ではない牛肉であるにもかかわらず、近江牛であると宣伝広告をしたり(優良誤認表示)、実際には他店の方が安いにもかかわらず「日本一安い!」と宣伝広告したりすることです(有利誤認表示)。
41条の小さな法律ですが、事業者が広告を行うにあたっては非常に重要な法律となっています。
そして、令和5年10月1日より、景品表示法第5条第3号で内閣総理大臣が指定する不当表示として、ステルスマーケティング広告が規制されることになりました。
◯景品表示法(e-GOV法令検索)
◯消費者庁「事例でわかる景品表示法 不当景品類及び不当表示法ガイドブック」
◯東京都「知っておきたい広告表示のルール」
4. ステルスマーケティング規制の内容、要件
内閣府の告示によれば、規制の対象となる表示は、
「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」
「事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの」
とされています。
規制の対象となるかどうかの要件としては、
① 事業者の表示であること
② 一般消費者が事業者の表示であることを分からないこと
この二つの要件を満たした場合にステルスマーケティング規制の対象となります。
①については、たとえば事業者自身でなくても、商品の販売担当者が、販売を促進する目的で、商品の画像や文章をSNSにアップする場合や、社外のインフルエンサーに商品の特徴を伝えた上で、インフルエンサーがそれに沿った内容を口コミサイトに投稿する場合などが該当します。
②については、たとえば「広告」、「PR」といった表記が一切ないとか、あったとしても他の文字と比べて極めて小さい、大量のハッシュタグに紛れている、といった場合などが該当します。
◯消費者庁「景品表示法とステルスマーケティング〜事例で分かるステルスマーケティング告示ガイドブック」
5. ステルスマーケティング規制に違反した場合
消費者庁の調査の結果、違反行為が認められた場合には、事業者に対して措置命令が行われます。また、その内容が公表されてしまいます。消費者庁等のウェブサイトに掲載され、広く報道されることもありますので、自社への信頼が大幅に損なわれるリスクがあります。
さらに措置命令に違反した場合には刑事罰が科されることもあります。
6. ステルスマーケティング規制に対する各企業の対策
ステルスマーケティング規制はすでに令和5年10月1日よりスタートしています。したがって、各企業においては、自社の広告がステルスマーケティング規制に抵触しないかどうか、早急に確認する必要があります。
また、事業者が講ずべき措置の具体的な内容も公表されていますので、これに沿って社内での対応を取っていく必要もあります。
当事務所では、ステルスマーケティング規制についてのご相談、社員研修など随時承っておりますので、ぜひお気軽にご相談ください。