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請負契約の瑕疵担保責任における「瑕疵」に関する重要判例のご紹介

平成24年3月21日
弁護士 一級建築士 一級建築施工管理技士
 今 堀   茂

【はじめに】
 前回は,建物の瑕疵についての不法行為責任に関する判例をご紹介させて戴きましたが,今回は,請負契約の瑕疵担保責任における「瑕疵」に関する判例です。
 本判決は,いわば注文主の「こだわり」を約定としていた場合には,その約定に反する仕事には,「瑕疵」があると判示したものです。
 注文建築の契約及び工事を行う際には,知っておいた方が良い判例であると考えられますので,ここに紹介致します。
 
【事案の概要】
 事案としては,被告(上告人)から建物の新築工事を請け負い,その建築をした建設業者である原告(被上告人)が,被告に対し,請負残代金の支払いを請求した事件です。被告は,建物の瑕疵修補に代わる損害賠償請求権等と請負残代金債権との対当額での相殺を主張していました。
 本件建物は,神戸市の阪神・淡路大震災で倒壊した建物の跡地に建てられた,学生向けのマンションなのですが,被告は,同震災で,多数の方が建物の下敷きになるなどして死亡した直後であったことから,建物の安全性には非常に神経質になっており,本件建物の耐震性を高めるために,一部の柱を当初の設計内容より太い鉄骨を使用するよう求め,原告もこれを承諾していました。ところが,原告は,この約定に反して,細い鉄骨を使用して本件建物を建築してしまったのです。 
紹介致します本判決は,この事件の上告審のものです。
 
【判決要旨】
 破棄差戻し。
 本件請負契約においては,上告人及び被上告人間で,本件建物の耐震性を高め,耐震性の面でより安全性の高い建物にするため,南棟の主柱につき断面の寸法300mm×300mmの鉄骨を使用することが,特に約定され,これが契約の重要な内容になっていたものというべきである。そうすると,この約定に違反して,同250mm×250mmの鉄骨を使用して施工された南棟の主柱の工事には,瑕疵があるものというべきである。
 
【解説】
1 請負契約の瑕疵担保責任に関する一般論
  請負人の瑕疵担保責任は,「仕事の目的物に瑕疵あるとき」(民法634条1項本文)に生じるところ,「仕事の目的物に瑕疵」があるとは,完成された仕事が契約で定めた内容どおりでなく,使用価値または交換価値を減少させる欠点があるか,当事者があらかじめ定めた性質を欠くなど不完全な点があることとされており,これが通説です。
2 建物の請負契約に関する特徴
  そうすると,契約当事者間であらかじめ了解されていた範囲内で,現場の状況に応じて若干の変更があった場合は別にして,建物の設計図と異なった施工が行われた場合等,当事者間であらかじめ定められた内容に反する工事が行われた場合には,「瑕疵」があるということになります。
  そして,ここで一つの疑問が生じます。建物の場合,設計図のみからでは工事内容の詳細については不明な部分が多いため,建築基準法上の基準への適合の有無が,「瑕疵」の有無の判断基準とされることがあり,同基準に適合さえしていれば,「瑕疵」は存しないことになるのではないかという疑問です。
  しかし,これは,請負契約当事者間の合理的意思解釈として,建物の安全性等に関しては,少なくとも建築基準法上の基準に適合する建物を建築することが契約の内容になっていたと解されるということであって,当事者が,同基準以上の仕様にすることを合意していた場合には,その約定に反する建物は,たとえ同基準を満たすとしても,「瑕疵」があるということになると考えられます。つまり,建築基準法は,あくまで最低ラインであって,同基準以上の約定がある場合には,その約定が優先されるということです。
3 結論
  本件で問題となった柱は,断面の寸法300mm×300mmの鉄骨を使用することが,特に約定され,これが契約の重要な内容になっていたものであり,また,この約定に違反して,同250mm×250mmの鉄骨を使用して施工したことは,契約当事者間であらかじめ了解されていた範囲内の変更とは言えないので,前記通説の見解に照らせば,本件請負工事には,瑕疵担保責任上の「瑕疵」があると言わざるを得ません。
本判決は,最高裁が,請負契約の瑕疵担保責任上の「瑕疵」について,前記通説の見解に立っていることを示したものと言えるでしょう。
  建築基準法上の基準に適合しているからといって,どんな災害に対しても絶対に安全であるとは決して言えないのですから,安全性に関する(安全性に限りませんが)「こだわり」を約定しておけば,その「こだわり」が重要であれば保護され,たとえ建築のプロの判断に基づく工事であったとしても,その約定に反すれば,請負人は瑕疵担保責任を負うことになるということです。
  注文建築の際には,注文主は,重要であると考える「こだわり」を契約書の特約条項に記載し,一方,請負人は,注文主の「こだわり」を尊重して,勝手な判断を避けるべきでしょう。
 
注:本稿に記載されている法律的見解は,あくまでも私見です。