地下鉄烏丸線四条駅、阪急京都線烏丸駅24番出口から徒歩2分
京都市下京区四条通新町東入月鉾町62 住友生命京都ビル8階(四条室町西北角)
TEL 075-222-7211 FAX 075-222-7311
 

 民法改正の建設業への影響 瑕疵担保責任から契約不適合責任へ 建築請負契約書を変更する必要があります!

令和2年4月28日
弁護士 一級建築士 一級建築施工管理技士
 今 堀   茂

【はじめに】
 改正民法が令和2年4月1日から施行されています。
 改正民法の中で建設業に最も影響のあるものと言えば,これまで瑕疵担保責任と呼ばれていた請負人の担保責任ではないでしょうか。
 以下,建物の請負契約において,これまで瑕疵担保責任と呼ばれていたものが,改正民法では,どのように扱われるようになったのかを解説させて頂きます。
 
【瑕疵担保責任から契約不適合責任へ】
 改正前民法は「仕事の目的物に瑕疵があるときは,注文者は,請負人に対し,相当の期間を定めて,その瑕疵の修補を請求することができる。」(前634条1項本文)と請負人の担保責任を「瑕疵」という文言を使って規定していました。
 これに対し,改正民法では「その種類,品質又は数量に関して契約の内容に適合しない…」(改正636条本文等)と表現し,請負人の担保責任を規定しています。これは,契約の内容に適合するかしないかを問題とするもので,「契約不適合責任」と呼ばれています。
 両者は法的な性格が異なるなど違いはあるのですが,ここでは触れません。これまで「瑕疵」は「その種類のものとして通常有すべき品質・性能,又は当該契約に基づき特別に予定されていた品質・性能を欠くこと」と判例上考えられてきましたので,改正民法はこれを明文化したものと言って良いと思います。
 では,一体何が変わったのかと言うと,大きなポイントは「権利行使方法の多様化」と「権利行使可能期間」です。
 以下,これらの点について,解説して行きます。
 
【権利行使方法の多様化】
 これまで,改正前民法では,建物引渡し後「瑕疵」があれば,注文者は①修補請求,②修補に代わる損害賠償請求,③修補とともにする損害賠償請求の3つの権利行使ができました。
 これに対して,改正民法では,建物引渡し後「契約不適合」があれば,注文者は①追完請求,②代金減額請求,③損害賠償請求,④契約解除請求の4つの権利行使ができるようになりました。
 まず,「契約不適合」があれば,注文者は,請負人に対して,契約内容に適合するように是正(修補,代替物,不足分の引渡し)を求めて①追完請求ができます(改正559条,562条1項)。これは,請負人に帰責事由がなくてもできます。
 次に,請負人が①追完請求に応じない場合,注文者は②代金減額請求ができます(改正559条,563条1項)。これも,請負人に帰責事由がなくてもできます。
 また,注文者には,①追完請求権,②代金減額請求権とは別に,③損害賠償請求権があります(改正559条,564条)。これは,これまでの無過失責任から変更され,請負人の帰責事由を必要とするようになっています。この点は,請負人にとっては,「過失がない。」と抗弁できるのですから有利な改正です。
 さらに,注文者は,建物完成後であっても,請負人の帰責事由なしに④契約解除請求ができるようになりました(改正559条,564条)。改正前民法では,社会経済的な損失の観点から「建物その他の土地の工作物については,この限りでない(解除できない)。」(前635条但書)と規定され,建物完成後の契約解除ができないとされていたのですが,この規定が削除されたためです。もっとも,これまでの判例を踏まえると,追完費用ないし損害賠償額が建替相当額を上回るような重大な契約不適合でなければ,契約解除はできないと考えられます。
 
【権利行使可能期間】
 改正前民法では,注文者の建物の瑕疵担保責任の行使可能期間(除斥期間)は,原則として引渡しから5年,コンクリート造等の堅固建物であれば例外的に引渡しから10年とされていました(前638条1項)。
 これに対し,改正民法では,注文者による契約不適合責任の行使可能期間(時効)は,「権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年」,「権利を行使することができる時(客観的起算点,多くは引渡し時)から10年」のいずれか早く到来した時までとされました(改正166条1項)。この期間の規定の仕方については,一長一短あるので,注文者と請負人とでどちらに有利になったとは言えないところです。なお,住宅に関しては,住宅品確法が強行規定として適用されますので,主要構造部と防水部分は引渡しから10年の期間制限に服することに注意が必要です。
 また,注文者は,契約「不適合を知った時から1年以内」にその旨を請負人に通知しなければ,契約不適合責任を請負人へ追及できないと規定されました(改正637条)。これは一見すると注文者に不利な条項のようにも思われますが,訴え提起による権利行使ではなく「通知」で足り,また,損害額の根拠まで示さなくても良いと解されていますので,むしろ注文者に有利な改正となっていると考えられます。
 
【契約条項】
 以上の通り,民法が請負契約についても改正されていますので,改正民法に対応させる形で工事請負契約書の内容を変更しておく必要があります。
 また,契約不適合責任の行使可能期間については,契約条項によって請負人に有利に短縮することも可能です。国交省等が作成している請負契約約款も改訂されていますので,そちらを使用しても良いでしょう。ただし,必ずしも建築業者に有利な約款となっている訳ではありません。
 まだ対応されていない建築業者は,弁護士へご相談されることをお勧めします。
以上
 
注:本稿に記載されている法律的見解は,あくまでも当職の私見です。